2015 Fiscal Year Research-status Report
直流超電導ケーブルにおける極低温電気絶縁構成の高性能化に関する研究
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15K18019
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
川島 朋裕 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助手 (70713824)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 極低温電気絶縁 / 絶縁紙-液体窒素複合系 / 電荷侵入 / 絶縁破壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
直流超電導ケーブルの電気絶縁性能低下の一つの要因となり得る空間電荷の影響をプレストレス試験によって検討した。 結果として、絶縁紙の透気抵抗度の増加に伴って絶縁破壊の強さ(Fb)は増加した。さらに、Fbの極性効果は、透気抵抗度が低い場合には負極性よりも正極性が高くなり、透気抵抗度の増加に伴って極性効果が反転する結果となった。これまでの研究では、絶縁紙内部へ負電荷侵入による絶縁紙の実効厚さの低下が負極性Fbの低下要因であり、負電荷侵入の要因としては、極低温環境下における電気伝導抑制の観点から部分放電が主であると考えてきた。透気抵抗度は絶縁紙の空気の通り難さを表す指標であり、絶縁紙内部への部分放電の侵入のし難さと考えることもできる。このように考えた場合、透気抵抗度が低い場合には部分放電が侵入し易いため、絶縁紙の実効厚さの低下により負極性Fbが低下したと考えることができる。また、正極性ストリーマが負極性ストリーマに比べて進展しやすく、先端電界およびエネルギー密度が高いといった特徴を踏まえれば、透気抵抗度が高い場合には部分放電が侵入し難いため、室温環境下における絶縁紙のFbの極性効果と同様に正極性Fbが負極性Fbよりも低くなったと考えられる。直流および交流プレストレスの結果からも絶縁紙内部への負電荷侵入の可能性が示唆され、特に交流プレストレスの結果に関しては、交流電界印加によって両極性の部分放電が発生しているにも関わらず、絶縁紙内部へは負電荷のみが選択的に侵入していると考えた場合に説明が可能な結果となった。以上の結果は、これまでの研究において不明確であった負電荷侵入の主要因が部分放電である可能性を支持するものでる。 さらに、絶縁紙-氷複合系に着目し、絶縁紙内部を氷で満たすことによって、部分放電による電荷侵入の抑制効果について初期検討も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実際の超電導ケーブルは冷媒として使用される液体窒素を加圧して使用することから、圧力環境下における絶縁紙の電気絶縁性能の解明が求められている。これまでの研究から絶縁紙の電気絶縁性能低下の一つの要因として負電荷侵入を考えてきた。本年度の成果は、負電荷侵入の主要因が部分放電であることを支持するものである。実際の圧力環境下における液体窒素中の部分放電現象と異なるため一概には言えないが、絶縁紙の透気抵抗度を高くした場合に部分放電が侵入し難くなる現象は、直流超電導ケーブルにおいて空間電荷侵入を極力抑制した電気絶縁構成を実現するための絶縁紙選定に一つの指針を与える結果になったと考えられる。 計画当初は、コロナ帯電ガンを用いて、積極的に一方の極性の電荷を絶縁紙内部に注入することを予定していたが、予備実験の段階で満足な結果が得られなかったため取りやめた。しかしながら、交流プレストレス試験の結果は負電荷のみが選択的に注入されていると考えた場合に説明が可能な特異な結果であり、直流プレストレス試験に比べて積極的に部分放電を起こした状態での試験であることから、当初計画していたコロナ帯電ガンによる積極的な電荷注入の検討を代替的に検討できた。また、実際の超電導ケーブルと同様にButt-gapを設けた試験を行う予定であったが、H28年度に予定していた絶縁紙-氷複合系による電荷注入抑制の効果の初期検討を先に行い、絶縁紙内部を氷で満たすことによって、絶縁紙内部への電荷注入が抑制できる可能性が示唆された。Butt-gapの影響および絶縁紙-氷複合系における電荷注入抑制効果のさらなる検討に関しては、H28年度に行う予定である。H27年度において、電荷注入が部分放電によって生じることが明らかとなり、実験方法の確立および実験結果の解釈が十分に行えたことから、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
Butt gapは、ケーブル湾曲部で絶縁紙同士の巻き込みによる破損を防止するために設けられる。Butt-gap中の部分放電が絶縁破壊の引き金になることが文献にて報告されていることから、実際の直流超電導ケーブルの電気絶縁設計に資するためには、Butt-gapを含めた構造での電気絶縁性能評価が必要不可欠である。特に、H27年度の成果として部分放電は電荷注入にも大きく関係していることから、H28年度はButt-gapの影響を調査する予定である。また、実際の超電導ケーブル同様に液体窒素を加圧した状態の結果が望まれる。圧力環境下においては部分放電が生じ難くなるため電荷侵入も生じ難くなることが予想される。計画当初に予定した圧力試験容器の使用が困難となったため、H27年度と同様に高い透気抵抗度を持った絶縁紙を用いて部分放電による電荷侵入を極力抑制し、圧力環境下における部分放電抑制状態における結果を推測する。 絶縁紙-氷複合系の電荷注入抑制効果がH27年度の初期試験によって示唆された。H28年度はButt-gapの影響も含めて絶縁紙-氷複合系においても直流・交流プレストレス試験を行う予定である。 以上の結果から絶縁紙内部への電荷注入を極力抑制した電気絶縁構成の基本的指針を得る。しかしながら、直流・交流プレストレス試験の結果は、電荷注入の過程・挙動を推測するのみである。そこで、交流損失電流測定に着目した。交流損失電流は、絶縁体内部の非線形な電荷挙動の情報を含んでいる可能性があることから、室温環境下において絶縁体中の空間電荷と交流損失電流波形の非線形性の関係について検討されており、また電力ケーブルの劣化診断等にも用いられている。交流損失電流波形の非線形性を解析することによって、極低温環境下における絶縁紙内部の空間電荷挙動の観測を試みる。
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Causes of Carryover |
当初計画で購入を予定していたオシロスコープよりも性能が低いオシロスコープで十分に部分放電の観測が行えることが分かったため、購入を取りやめた。 これまで参加していた北米の国際会議では極低温電気絶縁に関する研究報告が少なかった。H28年度にヨーロッパにて新たな国際会議が設立されることが分かったため、H27年度に予定していた国際会議への参加を取りやめた。ヨーロッパは直流送電の導入・研究が盛んであることから、本研究の成果の一部をヨーロッパの国際会議にて報告することとした。以上の理由から、ヨーロッパで開催される国際会議の参加費および渡航費に充てるために、H28年度に費用を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度の成果の一部をヨーロッパで開催される国際会議にて報告する予定である。H28年度の助成金と合わせて、国際会議の参加費および渡航費に充てる。これを引いた残額は、H27年度同様に電極系および液体窒素等の消耗品と液体窒素中での放電を目視で確認できるガラスデュワーを用いた実験系の構築に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)