2015 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー利用効率の向上のための解析性能の高い誘導機モデルの開発
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15K18026
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
坂本 織江 上智大学, 理工学部, 助教 (40443262)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 誘導機 / 電力系統 / 瞬時値解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、電気エネルギーの利用効率の向上のために、解析性能の高い誘導機のモデルを開発することである。世界では電気エネルギーの50%以上がモータで消費されており、とくにその多くを占める誘導モータについて、運転・制御方法の改良により電気エネルギー利用の高効率化を図ることができれば、全体への寄与が大きい。本研究ではこの運転・制御方法の改良に有用である電力系統の瞬時値解析を適用先とし、エネルギー利用効率を考慮でき、かつ計算の安定性と精度の高い新たな誘導機モデルを開発する。 誘導機には様々な種類があるが、その中で本研究では安価かつ堅牢であることから広く利用されている「かご形誘導機」という種類を対象とする。かご形誘導機は誘導機の基本的な特性をもつ構造であり、巻線型などの他の種類の誘導機モデルの開発の基盤となるものである。 本研究では誘導機のモデル化にあたり、瞬時値解析における誘導機の動特性計算に対して異なる2種類の積分手法を組み合わせた独自の計算手法を適用することにより、解析性能の向上を図っている。平成27年度は、本モデルについて、電力系統の瞬時電圧低下に対する誘導モータの特性を安定に計算できることを実機試験との対比により確認した。また、誘導モータの可変速運転を想定し、定格以外の運転周波数に対する効率を含む静特性について、実測対比により精度に関する検証を行った。 本モデルの実装には電力系統瞬時値解析プログラム(XTAP)を用いている。XTAPではモデルを部品としてユーザ間で共有することが容易であり、開発するモデルはXTAPのユーザにより活用されることが期待できる。一方で、本モデルの計算手法はXTAPに限らず適用することができると考えられるので、本研究の成果はXTAPのユーザのみに限定されるものではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
誘導機は同じ機器をモータとしても発電機としても運転することができ、本研究で開発する誘導機モデルはその両方の運転への適用を想定している。 平成27年度は主にモータとして用いる場合の解析性能を検証した。系統状態急変時の誘導モータの特性の計算に関する安定性と精度の検証を目的として、実機について始動・瞬時電圧低下・電圧復帰・電源遮断に対する特性試験を行い、その結果と対比することにより本モデルの精度を確認した。また、エネルギー効率の向上で重要となる可変速運転を想定し、複数の運転周波数に関する試験との実測対比も行った。いずれも誘導機の応動を安定に模擬できることが確認でき、本モデルの有効性が示された。ただし精度については、概ね良好な結果を得たものの、実験において誘導機の負荷の非線形性や軸振動の発生等の影響があったため、更なる検証が必要である。一方で、当初は定格周波数を対象とする計画であったため、可変速運転については計画内容よりも進んだ試験を行うことが出来た。 誘導発電機としての検証については、平成27年度は実験装置を購入した。装置は11月に納入され発電機としての試運転まで滞りなく行うことができた。しかし、誘導機に与える電圧をPWMインバータにより生成し直接印加する方式の機器であったため、計画時に想定していた本研究室で所有している測定器では電力の測定が正確に行えないことが判明し、平成27年度中に予定していた実測対比による検証を行うことができなかった。この点が進捗区分を(3)とした主な理由である。その後、他の研究予算により平成27年度内に高調波を含む電力を測定できる機器を購入することができ、この装置は使途に制約は無いので、これを用いて平成28年度に誘導発電機の実験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度までに、本モデルで用いている計算手法について、モータ運転でも発電機運転でも過渡時を含む特性を安定に計算できることは確認している。平成28年度は、(1)モータ運転時のより詳細な精度検証、(2)発電機運転時の実測対比による精度検証を行い、さらに(3)シミュレーションにより開発したモデルがエネルギー利用効率の向上に有用であることを示す。 (1)のモータ運転における実測対比による精度検証については、本研究室及び本学で所有している機器で検証可能な範囲で、追加のデータを取得し検討を行う。(2)の発電機運転における実測対比による精度検証については、平成28年度に本格的な実験と検討とを行う。既にシミュレーションにより本手法を用いた誘導発電機が系統事故時にも安定して解析を行えることはこれまでに確認しているので、精度に関する検証ができれば本モデルの有用性を示すことができる。 以上の検証を行った後に、(3)として離島系統を例に本モデルがエネルギー利用効率の向上に有用であることを示す。離島系統では、風力発電機に用いられる誘導発電機や、水道用ポンプや工場に用いられる誘導モータが系統に占める電力比率が高く、誘導機が系統に与える影響が大きい。本研究で開発するモデルはこれらの誘導機の特性を安定に計算できると考えられ、本研究の結果として離島におけるエネルギー利用効率の向上策の一端を示すことできると予想される。本研究では誘導機モデルの開発と有用性の検証までを研究対象範囲とし、開発モデルを用いたエネルギー利用効率の向上方法に関する更なる研究は本研究終了後に別途行う。
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Research Products
(2 results)