2016 Fiscal Year Research-status Report
野生コウモリによる長距離音響ナビゲーションアルゴリズムの解明
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15K18078
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
藤岡 慧明 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (00722266)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 大規模ナビゲーション / 標的探索行動 / 音響GPSイベントロガー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題である,コウモリの長距離ナビゲーションアルゴリズムの解明のために,2016年度において,①GPSデータロガーを用いたコウモリの長距離軌道データの蓄積と分析,および②音響GPSイベントロガーの開発・評価およびコウモリへの装着・回収を行い,学会(日本バイオロギング研究会シンポジウム等)において発表を行った. ①においては,昨年度に引き続いて北海道にてキクガシラコウモリにGPSロガーを装着し,3個のロガーを回収することに成功した.合計7個の回収したGPSロガーの軌道データの解析から,コウモリが移動と停滞を繰り返していることが分かり,停滞した場所へ戻る移動パターンが時折観測された.Foray searchと呼ばれるこのような軌道は蝶や蟻など他の生物でも観測されており,標的探索に効果的な軌道であることが報告されている.これよりコウモリも獲物の探索のためにForay searchを行っている可能性が示唆される.一方,林道などの林縁部を選択的に移動する傾向が得られ,ある通路を追従するRoute-followingの戦略をコウモリが大規模ナビゲーションに用いている可能性が示唆された. ②においては,コウモリの大規模軌道計画と超音波センシングの関係について明らかにするために始めた,音響GPSイベントロガーの開発プロジェクトに携わり,開発したロガーの評価および改良を行った.そして,そのプロトタイプを購入してコウモリに装着し,1個回収することに成功した.その結果からは,停滞パターンの際にコウモリが移動時よりも多く超音波を放射していたことが分かり,コウモリが採餌と移動を繰り返している可能性が示唆された. また,コウモリの軌道解析のために構築・整備した飛行動態に関する数理モデルを用いて野生コウモリの“先読み”音響ナビゲーションを明らかにした成果が,米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2016年度は,コウモリの長距離軌道計測のために2015年度に構築した実験プロトコルを用いて,長距離軌道データの蓄積およびパターン化と理論的分析を行うことを課題として掲げた.2015年度に引き続き,キクガシラコウモリの軌道データを回収してデータを蓄積し,そしてそのデータ分析から,上記のように大規模ナビゲーションや効率的な標的探索のための軌道計画の傾向を明らかにすることができた.小規模空間におけるナビゲーション行動については,2015年度にマイクロホンアレイを用いて計測を試みた結果,キクガシラコウモリの音声を録音することができなかったが,この結果からコウモリが特定の餌場を利用していない可能性が得られ,別の観測地で行った実験からはキクガシラコウモリが反響音の雑多さに応じて,放射超音波の周波数定常部と変調部の割合を変化させることで,周囲環境を認識しやすくしている可能性が得られている.これより,当該研究課題は順調に進展していると言える.さらに2016年度は,長距離ナビゲーション時のコウモリの超音波センシング戦略の分析のために新しく音響GPSイベントロガーを開発し,評価・検証を行うとともにそのプロトタイプを装着・回収することに成功し,さらに大規模ナビゲーションに関わる新たな知見が得られたことから,当該研究課題は当初の計画以上に進展していると言える.来年度は,開発した音響GPSイベントロガーを改良し,コウモリの大規模空間における音響ナビゲーション行動について理解を深めていく.
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、今年度は長距離軌道データの蓄積および分析により,大規模ナビゲーションや効率的な標的探索のための軌道計画の傾向を明らかにすることができた。2017年度は,得られた知見を論文としてまとめて投稿するとともに,これまでに開発してきた音響GPSイベントロガーを,コウモリのソナー音響特性を詳細に調べられるように改良する.また,コウモリの軌道解析のためにこれまでに構築・整備した数理モデルを改良することで,これまで知られていない大規模空間におけるコウモリの音響ナビゲーションアルゴリズムの解明を目指していく.
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Causes of Carryover |
2017年度には音響GPSイベントロガーを用いて野生コウモリの音響ナビゲーション行動について検討する予定であるが,改良版の評価が2016年度中には不十分であった.そこで,2017年度に完成する改良版をまとめて購入するために,次年度へ繰越すこととした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度には音響GPSイベントロガーの改良版を購入する予定である.同ロガーをコウモリに装着して回収を試み,回収できたデータから超音波放射タイミングと長距離飛行ルートとの関連性について検討を行う.
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