2015 Fiscal Year Research-status Report
連成表現を用いた分布定数系に対する状態変換ベース境界制御器設計
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15K18085
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
椿野 大輔 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (00612813)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 制御工学 / 分布定数系 / 状態予測制御 / 状態変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、制御入力ごとに異なる時間遅れが存在する多入力線形システムの安定化問題について考察した。時間遅れは、例えば信号のやりとりに通信を介せば必然的に現れるものである。そのため、遅れを補償した制御系設計法を考察することは、あらゆるものがネットワークで結ばれている現代では、重要な技術である。 入力遅れが存在する多入力システムは、遅れの大きさで決まる空間領域上の複数の1階双曲型偏微分方程式と線形常微分方程式の連成系で表すことができる。具体的には、各偏微分方程式は独立しており、それを満たす変数の境界値が常微分方程式中に現れる。それら連成表現に基づき、1. 対象を漸近安定化する状態予測に基づいた状態フィードバック則を導出し、2. 出力ごとに異なる遅れが存在する場合に、遅れた出力から現在の状態値と出力の将来値の推定するオブザーバ(推定器)を導出した。 入出力数が一つの場合に対応する問題については、既に状態変換を用いたアプローチが存在している。しかしながら、入出力が複数になり遅れがそれぞれ異なると、そのアプローチを単純に拡張することはできない。そこで、遅れの差異を適切に扱うことができる新しいタイプの状態変換を提案し、上記の成果を得た。得られる制御則は、現存する他の遅れ補償制御器と比較して、遅れがないと仮定した制御則設計の知見をそのまま生かせることができるという利点を持っている。また、状態予測のプロセスも非常に合理的なものになっている。オブザーバについても同様な利点をもっている。また、ここで提案した状態変換は、この問題だけではなく、同様な構造をもつ他の常微分方程式-偏微分方程式連成系について適用可能なことが予想され、幾つかの応用が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で記載したものは、申請時の研究計画では次年度に行う予定であった内容である。得られた成果は満足がゆくものであったが、次年度は連続体の振動に関連した別の対象の安定化制御器設計も計画していた。本年度行う予定であったものと、次年度行う予定であったものの一部が残っていることを考えれば、全体としてはやや遅れている。しかしながら、本年度に行う予定であった境界連成形式に基づく双曲型偏微分方程式で記述されるシステムの安定化制御については、既に進めており、大幅な遅れを伴っているものではない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まずはもともと今年度行う予定であった、不連続係数をもつ双曲型分布定数系に対する境界連成形式をもとにした安定化制御器設計に関する研究を行う。これには、放物型偏微分方程式で記述されるシステムに対して申請者らが既に得ている、不連続積分核を含む状態変換を用いることを計画している。 また、次年度の計画にある、時間偏導関数を含む偏微分方程式と空間偏導関数のみからなる微分方程式の連成系で記述される連続体の振動の制御も扱う予定である。これは、申請時には具体的な物理対象として梁の振動を想定していたが、別の連続体の振動を扱う可能性がある。ただし、抽象化した数理モデルとしては同様な構造をもつものであるため、理論的枠組みとしては大きな違いはない。 また、研究計画では理論研究が主であったが、申請者の所属機関が変更したこともあり、研究計画や研究費の使用計画に大きな影響のでない範囲で、得られた成果の簡素な実験による検証も行っていきたい。
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Causes of Carryover |
申請者は、本年度の途中に所属機関の変更があった。それに伴い、研究環境のうち前所属機関に依存していた計算機環境、計算ソフトウェア環境などの一部を新たに構築する必要が出てきた。そのため、今年度の研究費の一部を残し、次年度に新しい所属機関での研究環境構築に使用することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本来の計画では、次年度は物品の購入はわずかで、多くは研究打ち合わせや国内・国際会議参加などの旅費に使用する予定であった。前項目で述べた理由により、旅費使用分を減らし、今年度残額と次年度研究費によって、数値シミュレーションのための計算機や計算ソフトウェアの購入にあてる予定である。
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