2016 Fiscal Year Research-status Report
連成表現を用いた分布定数系に対する状態変換ベース境界制御器設計
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15K18085
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
椿野 大輔 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (00612813)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 制御工学 / 波動方程式 / スロッシング / 状態変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(平成28年度)に行ったこととして、1. 境界で結合する波動方程式の境界安定化問題と 2. 容器内の液体振動であるスロッシングの制振制御・状態推定問題の考察が挙げられる。 1. については、例えば複数の材料からなる構造物中を伝搬する弾性波動のような、異なる媒質中を伝搬する波動の運動モデルは、境界で結合する複数の波動方程式となる。本研究では、まずは二つの1次元波動方程式が境界で結合しているものを対象として、状態変換に基づき安定化を行った。興味深いことに、指定した収束率をもつ境界フィードバック安定化制御則が具体的な形として得られた。得られた制御則は、単一の波動方程式に対して既に知られている境界制御則とは異なり、境界での振動速度だけでなく、伝搬速度の比、領域の長さの比などで決まる空間上のある1点での状態値もフィードバックするものとなっている。 2. で扱ったスロッシングは、運動を行っている移動体の液体燃料タンク内や石油貯蔵タンク内で生じ、運動制御への悪影響やタンクの爆発事故など、深刻な問題を引き起こすことが知られている。このスロッシングに対して、液体表面での動的な偏微分方程式と液体内における静的な偏微分方程式の連成系であるポテンシャル流モデルを採用し、矩形容器内の制振制御と状態推定について考察した。具体的には、ポテンシャル流モデルに物理的な近似を施すことで、従来のような有限次元システムへの近似ではなく、偏微分方程式のままの近似モデルを導出した。これに基づく状態変換を用いた制御則設計に成功している。得られた制御則は、境界での波面の高さのみをフィードバックする非常に単純なもとなっている。さらに、双対問題を考えることで境界の高さのみから波面分布や液体内の速度ポテンシャル分布を推定する推定器の設計も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度(平成27年度)は、本来今年度(平成28年度)に行う予定であった、常微分方程式と偏微分方程式の境界結合系として表すことができる、制御入力ごとに異なる遅れをもつシステムの遅れ補償安定化フィードバック制御則について考察を行った。今年度は、昨年度に行う予定であった波動方程式の境界結合系の境界安定化について考察し、計画時に希望していた水準以上の成果が得られた。また、スロッシングの制振制御や状態推定については、もともと計画時に扱う対象として想定していなかったが、本研究で扱う制御対象のクラスに合致するものであり、工学的にも重要な問題である。これらについて実績の概要で述べた通り有益な結果が得られたことから、申請時に想定していた目的達成のために、順調に研究が進められていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度となる。本年度に多くの成果が得られたため、国際会議や学術雑誌への投稿を積極的に行っていく予定である。それと同時に、申請時の計画通り非線形問題についても考察を進めたい。特に動的・静的な偏微分方程式の結合系であるスロッシングについては、液面の振幅が微小である仮定下でなければ線形モデルとはならない。しかしながら、現実には大きな振幅をもつ波面が生じるのが普通である。まずは、本年度得られた線形モデルの結果を元に、非線形モデルの局所解析を行うことで、線形モデルに対する制御則がどの程度有効であるかを検証する。また、純粋な状態変換に基づくアプローチだけでは、非線形問題に満足のゆく解答を与えられない可能性がある。そのため、例えば受動性に基づく制御などの、常微分方程式でモデル化されるシステムである集中定数系に対する非線形制御手法の拡張なども、必要に応じて検討を行う。
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Causes of Carryover |
平成27年度の途中で申請者の所属に変更があったため、研究環境を再構築する必要があり、昨年の実施状況報告書に記載したように研究計画全体としては遅れを伴っていた。今年度は順調に研究を進めることができ、多くの成果を得ることができた。しかしながら、当初計画していた国内・国際会議への参加については、昨年度の遅れのため一部を見送ることとなり、次年度に行うこととなった。実際、次年度使用額は国際会議参加のための費用(参加登録費・旅費など)としては妥当なものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由で述べた通り、国際会議での成果発表のために使用する予定である。12月に予定されている 56th IEEE Conference on Decision and Control, Asian Control Conference 2017 や、1月の AIAA Guidance, Navigation, and Control Conference などを検討している。
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