2016 Fiscal Year Research-status Report
船舶レーダーと画像解析に基づく都市域における降雨微細構造の解明
Project/Area Number |
15K18125
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Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
小田 僚子 千葉工業大学, 創造工学部, 准教授 (50553195)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | レーダー / 降雨 / 鉛直分布 / 大気境界層 / 乱流 / 都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,平成27年度に千葉工業大学新習志野キャンパス(千葉県習志野市)の建物屋上に設置したXバンド(9,410MHz)の船舶レーダーを用い,高時空間分解能(約2秒,12m分解能)で降雨の鉛直分布を捉える常時観測をほぼ通年で実施した.また,平成28年度には船舶レーダー観測地点において新たにディスドロメータを設置し,地上における降雨落下速度および降雨粒径の測定を開始した.加えて,夏季には同地点にて小型ドップラーライダーを設置し,降雨前後の風系場の測定も実施した.観測始点にはLAN環境も整備し,降雨の鉛直分布をリアルタイムで確認できるようになり,画像の写り方を遠隔で調整できるようなシステムを構築した. 本研究の目的は,船舶レーダーにより降雨プロセスの詳細な時空間挙動(鉛直断面)を捉え,小型ドップラーライダー等の機器から得られる降雨前後の風系場との関連を考察することである.これに対し,平成28年度には以下のような成果が得られた. 1.レーダー画像について,雨滴をトレーサー粒子としてPIV解析(粒子画像流速測定法)をすることで「降雨中の大気擾乱」を定量評価することを試みた結果,局地的大雨のような“深い対流性降雨”では,鉛直断面内で雨滴落下速度が局所的に‐4m/s~4m/s大きく異なる複雑な降雨形態を示すことがわかった. 2.小型ドップラーライダーを用いて局地的大雨時における降雨前後の上空風の変化に着目したところ,降雨開始直前から直後にかけて風速が急激に弱まるとともに,降雨前において地上から高度500mにかけて上昇流の卓越が明瞭にみられることがわかった. このように,降雨中の乱流状態を定量的に評価し,加えて降雨前後の風系場を捉えたことは,局地的大雨の現象解明に向けて極めて意義深い成果であるといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に設置した船舶レーダーは,当初は機器の不具合により観測できない時期が続いたものの,平成28年度には修理を行い現在は順調に降雨鉛直分布の常時観測を実施している.また,平成28年度には新たにディスドロメータを設置し,地上での雨滴落下速度等の測定を開始するとともに,夏季には小型ドップラーライダーによる下層風の集中観測を船舶レーダー観測と同期して実施した.これにより,平成27年度の観測・解析の遅れを平成28年度では取り戻せたと考えている.平成28年度には上記観測体制により,局地的大雨および台風通過時における降雨前後の下層風の変化を捉え,降雨の発生前~発達中~終息の一連の降雨プロセスを観測することに成功した.特に局地的大雨の事例では,降雨発生前に明瞭な上昇流が高度500mまで生じていることがわかり,局地的大雨の発生メカニズムを観測的側面から明らかにする成果が得られている.また,流体解析ソフトを用いたPIV解析にも取り組み,対流性降雨では局所的に強い上昇流・下降流が生じていることを定量的に示した.実際の降雨中の乱流変動を,数値シミュレーションではなく観測結果から定量的に示した例は極めて少なく,本研究が独創的かつ降雨中乱流のメカニズムを明らかにする大きな可能性を持つものであることを指摘する. 一方で,平成28年度は観測体制の確立と観測の実施・解析に時間を要し,これらの成果発表を行えていない.現在は,これまでに得られた成果をまとめ,論文発表を行う準備に着手している状況である.
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Strategy for Future Research Activity |
現在設置・運用している船舶レーダー,ディスドロメータ,その他観測機器を引き続き常時運用し,降雨鉛直分布の取得および降雨中の大気乱流変動の定量的な評価を実施する. PIV解析手法にはまだ改善の余地があると考えており,このことから平成29年度は,PIV解析の事例を増やすとともに,生画像のノイズ除去や平滑化などの処理過程を改善し,ディスドロメータで測定される地上における降雨落下速度と比較検証することで降雨中の大気乱流変動の推定精度を高めることに取り組む. 平成29年度は本課題の最終年度でもある.このことから,得られた成果をまとめ,学会発表および論文投稿を積極的に行う方針である.
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