2015 Fiscal Year Research-status Report
クオラムセンシングに基づく生物化学的MBR膜ファウリング制御手法の検証
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15K18143
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飛野 智宏 東京大学, 環境安全研究センター, 助教 (90624916)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 膜分離活性汚泥法 / ファウリング / クオラムセンシング / 廃水処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、細菌間シグナル物質であるアシルホモセリンラクトン(Acyl-homoserine lactone; AHL)の汚泥中の濃度を分析するため、固相抽出による回収とフーリエ変換質量分析による分析手法の確立を重点的に進めた。固相抽出におけるAHLの回収率に関して、添加回収実験を行い、試料の容量および実汚泥試料中に存在する共存溶解質による回収率への影響を評価した。その結果、親水性の高いAHLは容量が100 mlを超えると回収率が大きく低下するが、ある程度疎水性の高いAHLであれば、容量が500 mlでも回収率の低下は限定的であり、実汚泥試料の上澄みからの抽出においても50-60%の回収率を得られることが示された。また汚泥菌体中からも、液相抽出と固相抽出を組み合わせた手法により、概ね20%程度の回収率で分析可能であることが示された。 実験室MBRを立上げ、連続運転を行い、上記の手法を用いて実験室MBR汚泥中のAHL濃度の推移を追跡した。その結果、複数種のAHLを検出することに成功した。また、同条件で運転した2基のリアクターでは、同種のAHLが概ね同様の濃度で検出されたことから、MBR汚泥中でAHLがある程度の再現性を有して存在することが明らかとなった。一方で、AHL濃度と膜間差圧やその他水質指標との明確な関連は観察されなかった。また、AHL分解酵素を連続的に添加した条件において、汚泥中AHL濃度の減少は観察されず、膜ファウリングやその他水質指標への明確な影響も観察されなかったことから、今回で設定した条件の範囲では、必ずしも既報にあるような影響・効果が得られないことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は汚泥中のAHL濃度の分析手法の確立を重点的に進めた。固相抽出の条件検討を行い、目標としていた数百倍の濃縮倍率を達成可能である分析手順を確立することができた。また、実際の実験室リアクターの実汚泥からAHLを検出、その濃度を一定期間モニタリングすることができた。このような知見はほとんど報告されておらず、貴重なデータが得られたと考えている。一方、当初の目標であったファウリング抑制効果の得られる試験系の確立には至らなかった。その一因として、AHL分析の手間が想定以上に大きく、その他の水質分析も並行して進める中で、リアクターの運転条件を十分に検討することができなかったことが挙げられる。以上より、一部目標より遅れている部分はあるものの、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ファウリング抑制効果の得られる試験系の確立を目指しつつ、AHL濃度の変化とファウリング抑制効果の関連を追求するための試験を進める。特に、昨年度十分に検討できなかったリアクター運転条件の検討を優先して進める。また、AHL分析に要する手間を低減するための手法の改善を進める。また、リアクター内汚泥の異なる画分におけるAHL濃度の分析を行うとともに、微生物叢の変化も解析するなど、前年度の分析項目では捉えられなかった汚泥・リアクター内の変化を捉えることを目指す。
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Causes of Carryover |
AHLの分析に予想以上に手間を要した結果、分析可能な試料数に制約があったため、AHL分析用消耗品類の使用量が想定よりも少なくなった。また、並行して進めたリアクターの運転条件の検討においても、AHLの分析可能な試料数に制約があることから、並列で運転するリアクターの数を当初想定していた数まで増加させることが現実的でなくなった結果、リアクター関連部材・消耗品の購入費が抑えられた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した分は、AHL分析手法の改善のための消耗品に充てるとともに、新規リアクターの設計・設置およびリアクター関連物品の充実のために使用し、研究を加速させるために活用する。
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