2015 Fiscal Year Research-status Report
保全記録に基づく、病棟を対象とした室内環境における要求動向に関する解析
Project/Area Number |
15K18166
|
Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
須藤 美音 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20581812)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 環境 / 管理 / 病室 / ファシリティマネジメント / 労働生産性 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)研究の内容:本研究は病院病棟の適切な環境計画、環境管理基準設定のための室内環境に対する要求事項を明らかにすることを目的とし、以下の2点を目標課題として進めている。 課題①入院患者の生活環境である病室を対象として、建物管理者が記録する建物保全日報を基に、病室の室内環境における不具合の実態を長期的かつ広範な分析(マクロ分析)により明らかにする。ここでは、室内環境の不具合を時間フェイズ(月別)、空間構成的フェイズ(対象室の建築や設備の構成)、そして、利用者特性的フェイズ(発生した病室の診療科目)から分析し、特性を見出す。 課題②看護師の主な労働環境であるナースステーションを対象に、アンケート及びインタビューにより労働生産性を高めるために必要とする空間・環境要素を明らかにする。 (2)研究の意義・重要性:現在、病院の経営は回復基調にあるものの、赤字経営の病院が依然として多い。一般的に、経営が悪化すると、施設の保全や改修費用は圧縮される傾向があるが、これにより、施設サービス・医療サービスの低下を招き、更なる経営の悪化を招く可能性がある。病室環境は患者にとって療養上重要な環境であるが、建物竣工後の環境の不具合や、建築・設備で生じる故障の実態が明らかになっていないため。アンケート調査によるアプローチも見られるが、限定的な結果しか得られていない。一方で、看護師をはじめとした医療従事者の人材不足は極めて深刻であり、生産性を高める環境づくりは重要な課題である。病院は、看護師にとっては労働環境として捉えられ、患者を主体とした環境計画のみならず、看護師の視点に立った計画も必要である。労働環境としての病院の環境計画に関する研究例はあまり多くない。 以上の病室環境に関する問題に対し、(1)で述べた2つの課題を進めることで、病棟の建築・設備計画、環境管理基準設定のための基礎的な資料の提供に資すると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに取得した8病院施設のうち、大学附属病院2件、民間の病院2件に関して、室内環境不具合に関する調査を行った(調査①)。さらに、環境不具合等の管理を行う建物管理業務に着目し、保全の効率化を目指した調査を行った(調査②)。以下、調査①、②の進捗を示す。 ①保全記録に基づく病室環境の不具合に関するマクロ分析(4医療施設) 大学附属病院2件(愛知県内)、民間の病院2件(名古屋市内・大阪市内)の病室が含まれるフロアを対象として、取得した保全履歴から室内環境の質の不具合を抽出し、分析を行った。まず、環境要素別に、環境不具合の原因について分析を行った。その結果、水環境に関わる不具合が多かった。原因としては、漏水、排水不良、器具不良の件数が特に多い。次に多い音環境に関しては、扉や空調機が原因となる騒音が多かった。 次に、環境不具合発生時期に関する分析を行った。季節がみられたのは水環境および熱環境であり、夏場の7月、冬場の12月に不具合が多発することが分かった。 環境不具合の発生場所に関する分析では、小児科、小児外科の病室が含まれるフロアにおける不具合が非常に多かった。内容としては、FCU、排水溝に故意に異物を入れてしまうことが原因となる、熱環境や水環境の不具合が多かった。 ②保全業務を対象としたPDCAサイクルに基づく作業プロセスの構造の分析 本調査では環境不具合の修復期間の短期化検討に向けて、様々な故障・不具合への対処の業務プロセスの構造を分析した。某研究所建物(民間2病院と同じ建物管理会社)より取得した保全記録は不具合に対する処置の進捗状況が詳細に記載されており(病院より取得した保全記録には記載がない)、これを、PDCAサイクルに基づきカテゴリー化することで作業プロセスの構造明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度の継続で、病室環境の実態把握と環境管理業務の効率化を目的とした調査(下記の①および②)を行い、論文のまとめを行う。さらに、今年度は主として看護師を対象に、生産性向上を主眼に置いた環境の実態調査を行う(下記の(3))。 調査①保全記録に基づく病室環境の不具合に関するマクロ分析(1医療施設): 昨年度に引き続き、保全記録を基に大規模医療施設1件を対象に、病室環境の不具合について分析を行い、データの補強を行う。 また、昨年度整理・分析を行った大学病院2件を対象とした結果をまとめ、国際ジャーナル(Building and Environment)の執筆・投稿を行う予定である。 調査②保全業務を対象としたPDCAサイクルに基づく作業プロセスの構造の分析: 昨年度に引き続き、環境不具合の修復期間の短期化検討に向けて、某研究所建物の保全記録に基づき、様々な不具合への対処の業務プロセスの構造を分析する。前年度は2011~2014年度分の保全記録の整理・分析を行ったが、更に2015年度分の保全記録を取得したため、データの補強を行う。分析結果をまとめ、日本建築学会計画系論文集への執筆・投稿を行う予定である。 調査③看護師を対象とした、病院における環境の実態調査: はじめに、看護師の業務の把握を行う。看護師の業務は療養上の世話のように肉体に負荷のかかる業務から診療補助のように冷静な判断を要する業務まで、様々な業務を行っているが、文献調査に基づき、病棟で働く看護師の業務の整理を行う。次に、1日に行う業務の発生頻度を把握するため、看護師の活動量を実測調査により明らかにし、1日の活動量の変化について把握を行う。 最後に、看護師の労働生産性を高めるために、必要な空間・環境要素についてヒアリング調査、アンケート調査により分析を行う。
|
Causes of Carryover |
昨年度は、学内の在外研究制度により、5ヶ月間デンマーク・ドイツで研究する機会を得た。そのため、国内出張や学会の発表の回数が予定より少なくなったことにより、旅費、学会参加費、論文投稿費等が予定より少なくなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、昨年度訪問予定であった病院でヒアリングを実施する予定である。また、昨年度発表できなかった分の論文も投稿予定である。
|
Research Products
(4 results)