2016 Fiscal Year Research-status Report
気候特性と歴史性を踏まえた都市温熱環境の予測評価手法の開発と建築教育への展開
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15K18168
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
高田 真人 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (30581376)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地方中核都市 / 城下町 / 町割 / 温熱環境 / 気流解析 / 行政支援 / BIM / 授業プログラム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度(H28年度)は,対象地の温熱環境の解析,設計教育への展開を意図した教材の開発,この両方について十分な成果が得られた。また研究成果は,国内だけでなく海外でも報告した。 まず対象地の温熱環境の解析に関しては,前年度(H27年度)に実施した対象地の夏季実測データを元に,対象地(熊本市古町地区)の温熱環境,特に気流環境を数値シミュレーションより詳細に解析した。これにより夏季における熊本市古町地区の温熱環境の実態を気流分布も含めて面的に把握した。同時に,対象地独自の空間構成が屋外の温熱環境に及ぼす影響を総合的に明らかにした。 続いて教材の開発に関しては,前年度に実践した環境工学と建築設計を組み合わせた授業の結果をとりまとめ,建築学会・大会で発表した。結果,一度設計した作品を環境に配慮して学生自身に再設計させる授業形式が,対象地周辺の環境に目を向けさせる上で効果的であることを把握した。 一方,2016年4月に発生した熊本地震により古町地区の伝統的な建築の多くは取り壊される見通しとなった。これにより大地震により日本の伝統地区の街並みのアイデンティティが失われる可能性が全国の多くの主要都市でも起こり得ることが明らかとなった。本研究は当初,建築家や行政による建築環境設計の支援を目指し,対象地の環境要素を整理・視覚化することで,環境面での特性とポテンシャルを把握する青写真(ブループリント)を開発する予定であった。しかし今回の地震での経験を踏まえ,大地震による伝統的な街並みの消失に備え,環境のみならず、都市計画・防災計画・構造(耐震設計等)・歴史に考慮する必要性があると考えた。幸い2016年12月よりこのテーマについてLIXIL調査研究助成金をいただけることとなったため,次年度は本研究の実践的な展開として地震による被害を受けた伝統的な街区の再建計画の提案手法の開発にも取り組んで行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度(H27年度)に実施した夏季実測より対象地の温熱環境を解析する上で十分な実測データを収録できた。本年度(H28年度)はこれら実測データを元に対象地(熊本市古町地区)の夏季温熱環境を数値シミュレーションより詳細に解析した。具体的には,CFDにより対象地の夏季の気流分布を把握し,寺社地を町人地が取り囲む「一町一寺制」となっている熊本市古町地区の独自の空間構成が屋外温熱環境に及ぼす影響を面的に把握した。同時に,気流分布・実測結果・3D-CAD対応熱環境シミュレータより再現した表面温度分布を組み合わせ,対象地の熱的快適性を導出し,屋外温熱環境の総合的に考察した。更に,解析より得られた対象地の温熱環境の熱的特性をまとめ,街区単位で改善策を提案した。次年度(H29年度)はこれらの結果を踏まえ,対象地の環境面での特性とポテンシャルを把握する青写真(ブループリント)の作成手法の開発を目指す。 一方,教材の開発に関しては,前年度に実践した環境工学と建築設計を組み合わせた授業の結果の取りまとめを通して,対象地周辺の環境に目を向けさせる上で一度設計した作品を環境に配慮して学生に再設計させることが周辺の環境に目を向けさせる上で効果的であることを把握した。次年度もこの方向で開発・検討する。 研究成果のアピールとして,対象地の温熱環境の解析に関しては,国内の学会で研究発表を行うと共に,2016年12月よりLIXIL調査研究助成金をいただけることとなった。また教材及び授業プログラムの開発に関しては,国内の研究発表のみならず国際学会PLEA2016においても口答発表し,研究内容を精査・アピールした。2017年5月現在,次年度のPLEA2017での発表も内定している。また論文に関しては,本研究に関連する内容の査読付き論文が建築学会・環境系論文集(2017年8月号)への掲載が決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究対象地である熊本市古町地区は,2016年4月に発生した熊本地震により大きな被害を受けた。次年度(H29年度)は,本研究の主目的の一つである対象地の環境面での特性とポテンシャルを把握する青写真(ブループリント)の作成手法の開発にあたり,対象地において再度夏季実測を実施し,前年度(H27年度)に把握した実測データと比較することで,対象地独自の空間構成による温熱環境の特徴を把握するとともに,地震が温熱環境に及ぼす影響も検討したいと考える。 解析より得られた知見の取りまとめにあたっては,本研究を申請した当時はBIMへの実装を予定していたが,現在入手可能かつ最大シェアの汎用GISソフトがBIMデータの導入を前提に構築されていることを踏まえ,多くの行政の現場で使用されているGIS形式でデータを取りまとめることに方針を変更し,次年度はその方向で検討する予定である。 対象地の熱的特性をBIMに対応した教材に取りまとめることに関しては,今年度(H28年度)までの授業プログラムに関する研究結果を踏まえ,次年度は,建築学科の学部生を対象とした授業を実施する際,対象地に関する知見をまとめた教材を用いると共に,対象地内の伝統的な住宅を再設計させることで,環境のみならず都市計画・防災計画・構造(耐震設計等)・歴史にも配慮した設計を実践させ,その効果を確認する方向で進めていく予定である。 最後に研究成果の発表に関しては,対象地の温熱環境の把握については,本年度までの成果をまとめ,次年度に建築学会・環境系論文集の査読論文に投稿する予定である。また授業プログラムの開発についても,次年度に掲載が決定した査読論文の次報に当たる内容を建築学会・環境系論文集に投稿する予定である。関連して,次年度も国際学会PLEA2017(2017年7月開催)での発表が決定している。
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Causes of Carryover |
今年度(H28年度)は1台のワークステーションで,気流解析と表面温度の熱収支解析を行った。しかしながら各解析で数日を要するため,両者を同時並行で行うことが出来ず,時間的な効率が非常に悪かった。今年度の結果を受け,次年度(H29年度)はワークステーションをもう一台購入する予定である。加えて研究計画でも言及したが次年度はGISソフトの購入も予定している。更にソフトウェア会社公式のソフト運用のための勉強会(有料)にも参加する予定であるため,次年度は今年度以上に予算が必要となる予定である。最後に,レンタルしている気流解析ソフト(製品名:STREAM)のライセンス更新料(20万円弱)も必ず必要となる。 この状況は今年度後半から予見されたため,本研究に必要不可欠な気流解析ソフトのレンタル代の一部だけでも次年度に回して確保しようと,次年度使用額を生じさせる判断をした次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の「理由」に記述したが,今回発生した次年度使用額(47810円)は,全て気流解析ソフト(製品名:STREAM)のライセンス更新料(20万円弱)に当てる予定である。
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