2016 Fiscal Year Research-status Report
<111>//ND集合組織制御によるアルミ合金のプレス成形性改善
Project/Area Number |
15K18247
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
塚本 雅章 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (30725148)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 集合組織 / 冷間圧延 / 総圧下率 / 5083アルミニウム合金 / せん断応力 / 表面粗さ / 結晶方位 / 析出物 |
Outline of Annual Research Achievements |
鏡面ロールを用いた無潤滑の冷間圧延後に焼鈍をした際,5083アルミニウム合金では総圧下率(1パスあたり10%)に関わらず,再結晶粒(Crystallite)が析出物の直近から優先的に生成するPSN(Particle Stimulated Nucleation)であることが判明した.しかし,これらの粒の成長は抑制され,せん断帯などから遅れて成長する再結晶粒に大半を占められる.また,総圧下率が30%の際には回復現象が並行して進行するため,再結晶の駆動力が減少し,旧結晶粒が残存したままになる.旧結晶粒は回復が進むにつれ結晶回転が元の方位に戻っていくため,冷間圧延前の方位分布からほとんど変化を伴わない. 総圧下率が50%になるとCopper方位,Brass方位およびS方位からなる圧延集合組織に類似した分布を示す.総圧下率を85%へ上昇させるとSS方位の集積率が高くなり,これにR-方位が加わった方位分布を示すようになる.この変移は圧延材の表面近傍のみならず内部においても類似した傾向が見られる.しかしながら,<111>//ND方位を持つ結晶粒は総圧下率の上昇と共に減少し,その反面<142>//ND方位を持つ結晶粒が増加する. 1050アルミニウムは総圧下率85%の冷間圧延で<111>//ND方位の結晶粒における増加が観察される.差異が生じたのは各々の機械的強度の違いにより圧延時の変形量が異なるためだと推察される.そこで,ロール表面に凹凸を設けて粗くし,同条件にて加工を行った.圧延材の表面近傍では{111}<112>方位の再結晶粒における集積率が最も高くなる.一方で,内部へ進むにつれ<111>//ND方位を持つ再結晶粒は減少し,中央近傍では圧延集合組織に近似した方位分布が観察される. 前述した内容は日本金属学会の春期ならびに秋期講演大会にて口頭発表し,日本金属学会誌に論文を投稿し査読中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
1050アルミニウムと同様の条件において冷間圧延ならびに焼鈍を行うと,5083アルミニウム合金では結晶方位の二極化が生じるのではなくSS方位,R-方位群を主とした<142>//ND集合組織に近付くことが判明した.これは各々の材料における機械的強度が異なることが原因である.換言すると,5083アルミニウム合金の場合にはロールと材料の摩擦係数が1050アルミニウムに比べて低くなるために,せん断方向へ応力付与が小さい.この結果を受け,ロールの表面にエメリー紙(#220)で圧延方向と垂直に凹凸を付け(以降ダルロールと称する),鏡面ロールを用いた場合と同様に施工を行った. ダルロールを使用した際は圧延材における表面近傍の方位分布が大きく変化した.<111>//ND方位を持つ再結晶粒の割合が他方位の粒よりも高くなり,中でも{111}<112>方位の再結晶粒が多く存在することがODF(Orientation Distribution Function)マップより判明した.しかしながら,前述する現象は内部に進むにつれ弱まり,厚さ方向に対して中央近傍における結晶組織に対しては,その効果がほとんど反映されなかった. 今回行った冷間圧延における1パスあたりの圧下率は10%である.この値を増加させることで,より深い所まで変形が生じて内部に存在する粒の結晶回転や応力付与に寄与できるものと考えられる. この検証は昨年度に済ませる予定であったが病を患ってしまったことにより,かなりの長期入院,療養生活を余儀なくされたため実施することができなかった.これに伴って,本研究テーマに関する口頭発表は辛うじて2回こなせたが,論文を執筆し投稿する時間を確保することが厳しくなり,復帰後に投稿した査読中の論文1本に留まっているのが現状である.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況欄にも記載したとおり,長期の入院,療養生活によりかなりの時間を失ってしまった.今後は昨年度予定していた一部の計画も実行するためエフォートを増やす.ダルロールを用いて1パスあたりの圧下率を20%,30%…と上昇させて,総圧下率が85%に到達するまで冷間圧延を繰り返す.その後,塩浴による焼鈍で再結晶化を図り,圧延材の表面近傍および内部の方位分布をSEM-EBSDにより観察する.目標である<111>//ND集合組織が両者において見られれば,試験片を作製し導入した引張試験機によりランクフォード値(r値)の測定を実施する.圧延では1軸配向になりやすいため,ND方向に目標面が形成されても異方性が顕著に現れやすい.r値はRDに対して0°,45°および90°方向から試験片を採取し,平均値より向上可否を判断する. 一方で,冷間圧延を繰り返す内に加工硬化が生じ,回数を重ねる毎に変形量が減少していくことも予想される.圧延する度にせん断変形が起こりにくくなり,内部への<111>//ND方位を持つ再結晶粒の形成が困難になることが示唆される.前述した結果より判断しなければならないが,内部の集合組織が目標と異なってくる場合には歪み除去を目的とした熱処理を適宜行い,軟化させた状態で冷間圧延を実施することも視野に入れる. 5083アルミニウム合金において,ある程度の目処が立てば同じく自動車のアウターパネルとして期待されている6061アルミニウム合金における<111>//ND集合組織形成へ研究を移行する.この合金は5083アルミニウム合金のように析出強化が図られておらず,機械的強度も少々小さくなるため組織制御への難易度は低いと考える.同様の手順で集合組織形成を試み,評価を行う予定である. 上記の研究によって得られた結果は,全て国際ならびに国内学会で口頭発表し,論文を投稿することにより公表していく.
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