2016 Fiscal Year Research-status Report
高温高圧水-アルコール系のマクロ物性挙動の支配因子探索に基づく新規反応溶媒設計
Project/Area Number |
15K18254
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小野 巧 東北大学, 工学研究科, 教育研究支援者 (20637243)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アルコール水溶液 / 密度 / 粘度 / 水素結合 / 疎水性水和 / 分子動力学計算 / 高温高圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
亜・超臨界領域を含む高温高圧水を利用した反応では,通常の水や有機溶媒では得られない特性が得られるため,新規反応溶媒としての利用が検討・実用化されている.この高温高圧水に溶質としてアルコールが加わった場合,溶質まわりの局所的な環境とバルクの環境の間で密度や組成が大きく異なるという溶媒和現象が生じることが知られている.この現象は,適当な共溶媒を超臨界水中に添加することにより,局所的な性質を調整することができる新規反応溶媒としての利用が可能であることを意味している.高温高圧下における水-アルコール混合系を反応溶媒として使用するためには基本的な熱力学物性である密度や粘度の知見が必要となるが,組成依存性まで着目したものはメタノールでも250℃以上の温度域では報告は皆無であり,粘度においては75℃以下の温度域の報告に限られる.そこで本研究では短鎖アルコール水溶液を対象とし,高温高圧下における密度・粘度測定を行うと共に,これらの物性の相関・推算手法の構築ならびに分子動力学計算によるミクロ・マクロ物性の関係性について検討を行った.その結果,前年度までの350℃までの測定から400℃まで測定領域を拡張することに成功し,水の臨界領域を超える条件下でのアルコール水溶液の挙動を明らかにした.測定値に対し,Eyring 理論と状態式の組み合わせを用いた相関方法を検討することで,測定したアルコール水溶液の密度・粘度を高温領域まで良好かつ連続的に相関することに成功した.また,密度測定結果より水およびアルコールの臨界点近傍ではアルコール組成の増加に伴い,水溶液が凝集性から膨張性に変化する特異的な挙動が確認でき,この結果に対し分子動力学計算を用いた解析を行ったところ,水特有の規則的な水和構造がアルコール組成の増加に伴い大きく減少し,これが膨張性への変化の要因となっていることを定量的に表現することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
流通式密度・粘度測定装置の改良を行うことで,熱分解性の物質をこれまで以上に安定して測定することが可能となった.この装置を用いてメタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール水溶液の組成依存性まで考慮した密度・粘度の測定を行い,400℃までのデータの蓄積を行った.しかしながら350℃以下では合成標準不確かさ8%程度で測定できたが,400℃では10数%まで増加してしまった.これは測定部の温度分布が想定以上に大きくなったことが原因であると考えている.測定した密度・粘度データに対しEyring理論をベースとしてvolume-translated Peng-Robinson状態式とRedlich-Kister混合側を組み合わせて相関したところ,昨年度まで検討していたPatel-Teja状態式を用いた相関よりも良好に高温領域まで相関できることを確認した.本手法はさらに高温領域における外挿推算に拡張できる可能性があり,今後400℃における精度が改善されたデータが蓄積されることで,その優位性が示されることが予想される.また,分子動力学計算による解析も平行して行っており,得られた解析結果は実験的に得られた物性挙動を矛盾なく説明している.以上より,研究は概ね順調に進捗していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
400℃におけるアルコール水溶液の密度・粘度測定を行った結果,水およびアルコールの臨界点以下でみられる挙動とは大きく異なることが確認できた.しかし,水およびアルコールの性質上400℃における物性は温度および圧力の変動の影響を大きく受けてしまい,350℃までの測定に対し測定精度大きく低下してしまった.本実験では特に装置内の温度分布が大きくなっていることが原因と予想しており,装置の構成および材質を見直すことによりこれを改善し,測定精度の向上および再測定を行う.得られた結果より,これまでに構築した相関手法が,臨界点をまたぐ領域まで連続的に適用することが可能かを評価するとともに,推算手法への拡張に取り組む.また,これまでの測定精度では,400℃になるとアルコール種間の違い,特に1-プロパノール,2-プロパノールといった直鎖と分岐鎖の違いを定量的に評価することができなかった.上記の改良および測定を通して,高温高圧水溶液における直鎖と分岐鎖の違いが,水和構造並びにマクロ物性に与える影響を定量的に評価することを目指す.
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Causes of Carryover |
本研究では,400℃以上という高温条件での物性値の高精度測定を目指している.高温下での測定は測定原理および装置の制約が大きく,特に密度測定では市販の振動管式装置で用いられているように磁気を使用することができないため,本研究ではレーザードップラー振動計を使用している.本研究で使用するレーザードップラー振動計は当研究グループで所有しているものを使用するが,耐用年数を超えて使用しており消耗品(レーザー管)の交換をすることができない.そのため,消耗品の寿命を迎え次第レーザードップラー振動計本体を更新予定であったが,前年度は消耗品を交換する必要が無かったため,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
測定方法を再検討することにより,測定時間を短縮することができたため,レーザードップラー振動計への負担を減らすことができた.あと1年程度は装置を更新する必要がないと考えている.これまで400℃までのアルコール水溶液を対象とした密度・粘度の測定を行ってきたが,400℃以上になると想定していた以上に温度の制御が困難であった.そこで,この問題に対する装置の構成ならびに材質の検討を行った後,装置の改良およびデータの信頼性を保証するための再実験に次年度予算を使用する.
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