2016 Fiscal Year Research-status Report
低放射化材料の変態超塑性変形を応用した成形技術開発研究
Project/Area Number |
15K18306
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
能登 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (50733739)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 変態超塑性 / 低放射化フェライト鋼 / 超塑性成形 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、核融合炉部材として耐熱性、耐照射性を兼ね備えた「低放射化フェライト鋼」の革新的成形技術に着目した。低放射化フェライト鋼とは、一般的なマルテンサイト系フェライト鋼の添加元素を変更することにより核融合・核分裂エネルギー分野への応用を見込み、開発研究が進められてきた次世代の鋼である。しかしながら、その降伏点の高さなどの特性ゆえに製造後、非常に加工しにくく、この難加工性が、実際の核融合炉を作る上で問題となることが予想されている。そこで本申請では、この難加工性を克服するため、変態超塑性という変形メカニズムを応用した新たな超塑性成形(SPF)技術開発を進めている。一般的に知られているSPFは「微細粒超塑性変形」という粒界すべり変形を主体としている。しかし、本研究では、「変態超塑性変形」と呼ばれる前者とは全く異なる高温クリープを主体としたSPFに着目した。この変形は意図的に急速な温度変化を与えることにより相変態を起こし、高温クリープを短時間で且つ連続的に起こすことにより誘起するという特殊な変形機構を持つ。この変態超塑性変形は、これまで一部の従来型の合金および鉄鋼材料においてのみ発現することが確認されているが、一軸の引張モードでしか確認されてはおらず、成形(圧縮)プロセスにおける応用はこれまでされてこなかった。昨年度までには、先進エネルギー材料として期待されるJLF-1鋼において初めて引っ張りモードにおける変態超塑性現象を確認した。また、荷重およびサイクル数が伸びに及ぼす影響の調査も進められ、より効率的に変形させる荷重変動の技術も試みた。この変形前後の組織観察を観察すると、先進材料が高エネルギー放射線に耐えうるマルテンサイト系組織を維持していることが分かった。これは変形後、再熱処理なく部材へ適用できることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は引張試験の実施、2年度はその組織解析、3年度は圧縮試験、4年度はその組織解析及びSPF技術への発展を計画していた。平成27年度では異なる組織制御が施された「JLF-1」と「9Cr-ODS鋼」と呼ばれる低放射化鋼を引っ張り試験により比較した。JLF-1は鋳造法により合金化された一般的な低放射化フェライト鋼である。一方で9Cr-ODS鋼は、機械的合金化と呼ばれる手法によりナノレベルオーダーの酸化物を粒内・粒界に分散することにより転位運動を抑制し強化した先進材料であり、どちらの材料も800/1000℃域でγ/α相変態を誘起することが確認されている。これらの2種類の低放射化材料に関し、基礎的な引っ張り試験を行い、引張試験による変態超塑性の発現の有無を確認した。この実験内では、今後、核融合炉ブランケット・ダイバータなどで用いられることが期待される試験材JLF-1で発現が確認された。 平成28年度(前半2か年が終了)では前年度までの内容をもとにし、変形後の組織観察を行った。もともとJLF-1は、鋳造製造後、後熱処理と呼ばれる工程を経て、組織制御が施される。この組織はマルテンサイト/フェライトの複合相であり、このような複合相を残し、変形させることはこれまで極めて困難であった。これは加工・接合後、再熱処理をしなければ元の制御組織には戻らなったためである。しかしながら本試験では、変形後にもほぼ同一の組織を有していた。これは常にサイクル熱処理を加えながら、変形を行い、そして終了するという変態超塑性変形が本来持つ特有の作業が功を奏したと考えられる。この結果は、これまで製造後、精密切出し・溶接を経て、再熱処理まで必要としていた低放射化材料による部材を、将来的に、溶接つなぎ目無しという無縫の部材に製作できる可能性を示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
3か年目となる平成29年度は、主に、これまで培った引っ張り試験データに基づいた圧縮モードによる変態超塑性変形を目指す。昨年度28年度は、組織解析や成果発表などを行うと同時に、平成29年度から本格化する温度変動下での圧縮試験機器の設計・準備を進めていた。このような特殊な機器は、机上では、単純な構造であるが、極めて新規性の高い上、安全性の確保などの問題点もあり、設計には様々な困難があった。しかしながらこれら機器群は今年度前半には、完成予定であり、段階的な試験を進めていく予定である。具体的には、初期段階として、単純な丸棒試料による基本的な圧縮試験から開始し、引張試験で得たようなサイクル数、荷重などが圧縮変位に与える影響など、同様な体系的データを採取する予定である。また最終年度となる30年度(4年目)には、その組織観察を予定しており、変形前後の組織を調査し、加工後の複合相組織が後熱処理を必要とするか否かを確認する。さらに進捗状況によっては、引張・圧縮・せん断といった複合的変形を伴う工学的発展技術として、絞り加工などへの応用も計画しており、今年度は、これらの発展研究に基づく基礎データを得ることを目的としている。そして、この一連の結果に関し、学術会議等において発表を行い、同時に論文発表も行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初想定していた旅費が節約できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の試験材加工および試験費用として有効活用する。
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