2015 Fiscal Year Research-status Report
自己増殖型の化学反応を用いた極低濃度ストロンチウムの高感度発光センサーの開発
Project/Area Number |
15K18322
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
久松 秀悟 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センター, 博士研究員 (20736277)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 化学発光センサー / 自己増幅 / 極微量検出 / フッ化物イオン / 連鎖的化学分解反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、極低濃度の放射性ストロンチウム-90(Sr-90)を検出するための高感度発光センサーの開発を目的としている。この高感度発光センサーを達成するために「自己増殖型の化学反応システム」を考案した。このシステムは(I)ストロンチウムイオンを認識し、自己増殖型の化学反応の媒介物質を放出する部位、(II)放出された媒介物質が開始剤となり、媒介物質自体を増殖させる部位、(III)自己増殖により増加した媒介物質で引き起こされる化学発光の部位の3成分で構成される。各成分を連続的に反応させることで、ストロンチウムイオンを認識した際の信号を増幅させ、高強度の発光として検出する。初年度は、本研究で最も重要な(II)から(III)への反応過程について重点的に研究を進めてきた。増幅させる媒介物質として、フッ化物イオンと過酸化水素をそれぞれ用いた場合の増幅を試みた。このうち、フッ化物イオンを用いた系において、本来化学発光が起こらない量のフッ化物イオンを(II)の自己増幅により、蛍光光度計で検出可能な発光強度をもつ化学発光を誘起させ、微量のフッ化物イオンを発光により検出することに成功した。具体的には、少量のフッ化物イオンをフッ化物イオン増幅剤に添加し、イオンの自己増幅を行った。この増幅させたフッ化物イオンを化学発光性化合物のジオキセタン誘導体に加えることで、その化学発光の発現の有無を調査した。さらに用いるフッ化物イオンの増幅剤やジオキセタン誘導体の使用量を変化させることで蛍光光度計を用いてその発光挙動を測定した。その結果、用いるイオンの増幅剤とジオキセタン誘導体に関して、発光量が最大となる最適な混合比が存在することが明らかとなった。この研究成果を学術論文にまとめ、投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、フッ化物イオンを用いた系において、フッ化物イオンの自己増幅により、微量のフッ化物イオンを化学発光により検出することに成功した。しかしながら、当初予定していたフッ化物イオンの増幅剤とジオキセタン誘導体を同時に用いる1ポット実験にまでは至っていない。増幅剤とジオキセタン誘導体に共通の保護基であるアルキルシリルエーテル基はその嵩高さに応じて、フッ化物イオンに対する耐久性が異なり、分解する時間にも差が出る。従って、耐久性の異なるシリルエーテル基を増幅剤及びジオキセタン誘導体に導入すれば、フッ化物イオンの自己増幅を先行させ、十分にフッ化物イオンが増幅された後、ジオキセタン誘導体の化学発光を連続的に発現させることが可能となる。しかしながら、現在のフッ化物イオンの増幅剤の分子設計および合成に時間を要したため、最適な保護基の選定にまで至っていない。 一方、過酸化水素を媒介物質に用いた場合の系では、過酸化水素により、分解反応を起こし、コリンと呼ばれる分子2個放出する化合物Aを合成した。この放出されるコリンは酵素の一種であるコリンオキシダーゼにより、コリン1分子につき過酸化水素を2分子生成することができる。生成された過酸化水素が再度化合物Aと反応する。これが繰り返されることで、系中で過酸化水素が増幅される。この増幅された過酸化水素により、化学発光を発現させることを、当初予定していた。しかしながら、増幅させた過酸化水素による化学発光の発現までには至らなかった。この理由として、系中で生成および増幅された過酸化水素が増幅中および増幅反応終了後に過酸化水素自体の分解が起こり、化学発光を誘起するために必要な過酸化水素が十分に残存しなかったためと考えられる。以上の結果より、研究の進捗に当初の予定よりもやや遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに増幅させる媒介物質として、フッ化物イオンと過酸化水素をそれぞれ用いた系で研究を進めてきた。その結果、フッ化物イオンが媒介物質として有用であるということが分かった。したがって、今後用いる媒介物質をフッ化物イオンにしぼり、その増幅速度と検出限界の向上を目指す。現在用いているフッ化物イオンの増幅剤は1個のフッ化物イオンに対して反応し、2個のフッ化物イオンを新たに放出する機能を有する。しかしながら、フッ化物イオンがなくても増幅剤は長時間反応溶液中にあると自己分解反応が起こることが分かった。これにより、添加するフッ化物イオンが極低濃度であっても、この自己分解反応が起こる時間よりも早く増幅反応が完結するように増幅剤のフッ化物イオンの放出能の向上が必要である。この改善方法としては、フッ化物イオンの放出量を現在の2個から、4個や8個に変更することが挙げられる。フッ化物イオンは指数関数的に増幅するため、放出量の増加により大幅な増幅速度の向上が期待できる。また、目的のイオンを認識し、開始剤となるフッ化物イオンを放出する認識部位についての分子設計および作製を行う。作製した化合物とフッ化物イオンの増幅剤および化学発光性化合物を用いて、3成分による化学発光センサー系を構築する。
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Causes of Carryover |
当該年度は予定した国際学会および国内学会等への出席を取り止めたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度では、主に有機合成反応を行った際、分離精製に用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置の保守・管理および合成反応に必要な合成試薬や有機溶媒、実験器具、消耗品等に使用する。また国際学会もしくは国内学会等の出席のための旅費や学術論文および特許を投稿・出願する際に必要な場合の手数料等に使用する。
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