2015 Fiscal Year Research-status Report
酸化リチウムへの後期遷移金属ドープによる新方式二次電池正極材料の開発
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15K18326
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小笠原 義之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (10638638)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エネルギー全般 / 無機工業化学 / 二次電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、酸化物イオンと過酸化物イオンの間の電気化学的酸化還元反応を利用した二次電池のための新規正極材料の開発を目的とする。これまでに、酸化リチウムの四面体カチオンサイトにコバルトなど遷移金属を置換した物質を正極材料として本方式の電池を実証してきた。それに加えて、充放電にともなう遷移金属や酸化物イオンの化学状態を分析し、その反応機構を明らかにしてきた。それらの知見を活かし、さらなる高性能化を志向して種々の遷移金属を置換した正極材料の開発を実施した。 1.新規正極材料の開発 価数の異なる種々のコバルト酸化物を原料として酸化リチウムと混合して正極材料を合成し、二次電池特性を評価した。その結果、3価のコバルトの酸化物であるコバルト酸リチウムを原料とした場合に容量270mAh/gで50回以上繰り返しできることを明らかにした。X線回折測定の詳細な解析から正極材料の酸化リチウム構造へのコバルトのドープ量を算出し、飽和ドープ量があることを見出した。 またドープする遷移金属を鉄とした新規正極材料の合成を実施した。種々の原料、合成方法を検討した結果、不規則岩塩型リチウム鉄複酸化物を原料として酸化リチウムと混合した正極材料が、容量200mAh/gで繰り返し充放電可能な良好な特性を示すことを明らかとした。その正極材料の構造、化学状態についてX線回折測定、X線吸収分光分析、メスバウアー分光分析で詳細に調べ、酸化物イオンと過酸化物イオンの間の酸化還元反応により可逆な充放電が進行していることを明らかにした。 2.正極材料のX線吸収分光分析 正極材料中の酸素の充放電にともなう化学状態の変化について、X線吸収分光分析により分析した。充電後の正極材料のスペクトルには過酸化物に帰属されるシグナルが出現し、過酸化物の生成を分光学的にも実証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの知見として、酸化物イオンと過酸化物イオンの間の電気化学的酸化還元反応を正極反応として利用した二次電池の正極材料としてコバルトドープ酸化リチウムが機能することを見出していた。平成27年度の計画では、これまでの知見を元に、ドープする遷移金属の選定や合成手法の条件検討により、新たな正極材料を開発することを目的とした。正極材料の合成に関して、原料や合成法を見直すことでより良好な充放電特性を示すコバルトドープ酸化リチウム正極材料を合成することができた。これにより可逆な充放電容量を200mAh/gから270mAh/gへと大きく向上させることができた。 またコバルト以外の遷移金属として鉄をドープした酸化リチウムでも可逆な充放電特性を示すことを明らかにした。種々の遷移金属をドープした正極材料でも、酸化物イオンと過酸化物イオンの間の酸化還元反応で充放電が進行することは、今後の正極材料開発において材料選択の拡大という点で意義深い。コバルトと比べて豊富で安価な鉄を利用できるという点は、実用的な観点からも望ましい。 正極材料の分析に関して、詳細な解析、新たな測定手法の導入により、反応機構の解釈について大きな進展が見られた。これまではX線回折測定の解釈は定性的であったが、詳細な解析により遷移金属のドープ量や不純物相の割合などの定量的なデータを得ることが可能となった。X線吸収分光分析により遷移金属の配位環境や、化学状態、酸素の化学状態に関する知見が得られるようになり、過酸化物の存在を分光学的に明らかにすることができた。 これらの成果を国内外の学協会での発表、国際的学術誌への論文投稿により広く社会に発信している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通りに順調に進展しており、その研究計画にしたがって進めていく。これまでの検討により、コバルトや鉄をドープした酸化リチウムが本方式の電池の正極材料として機能することを明らかにしてきた。これらの正極材料に対して、詳細な電気化学測定や種々の分光分析、物性測定を実施する。正極材料の組成、構造と物性、充放電特性との相関を解析し、得られた知見を合成方法へフィードバックし、正極材料の高性能化に向けた指針とする。 優れた充放電特性を示す正極材料について、充放電による正極材料の状態の変化を、種々の方法で分析し、充放電メカニズムを解析する。X線回折測定により、電気量に対する構造変化を定量的に検討する。X線吸収分光分析、X線光電子分光分析などで遷移金属の価数をはじめとする電子状態、酸素原子の電子状態を分析し、充放電による変化を明らかにする。特に、鉄に関してはメスバウアー分光分析を適用できるため、価数、配位環境、スピン状態などの詳細を明らかにできる。さらに、充電により生成する過酸化物や、過充電により発生する分子状酸素の定量的な分析と合わせて、充放電過程での反応メカニズムを詳細に解析する。 さらに正極材料の電気的、磁気的物性を測定する。酸化リチウムは絶縁体であるにもかかわらず、遷移金属をドープした正極材料は充放電が高速で進むことから、高い電子伝導性が予想される。導電率や磁気特性を測定し、充放電特性との相関を調べる。 初年度と同様の体制で大学院生らと協力しながら研究を進める。研究成果を取りまとめ、国内外の学協会での発表、国際的学会誌への論文投稿により研究成果を発信する。
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] Improved performance of Co-doped Li2O cathodes for lithium-peroxide batteries using LiCoO2 as a dopant source2016
Author(s)
Hiroaki Kobayashi, Mitsuhiro Hibino, Yoshiyuki Ogasawara, Kazuya Yamaguchi, Tetsuichi Kudo, Shin-ichi Okuoka, Koji Yonehara, Hironobu Ono, Yasutaka Sumida, Masaharu Oshima, Noritaka Mizuno
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Journal Title
Journal of Power Sources
Volume: 306
Pages: 567-572
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Charge/discharge mechanism of a new Co-doped Li2O cathode material for a rechargeable sealed lithium-peroxide battery analyzed by X-ray absorption spectroscopy2015
Author(s)
Yoshiyuki Ogasawara, Mitsuhiro Hibino, Hiroaki Kobayashi, Tetsuichi Kudo, Daisuke Asakura, Yusuke Nanba, Eiji Hosono, Naoka Nagamura, Yuta Kitada, Itaru Honma, Masaharu Oshima, Shin-ichi Okuoka, Hironobu Ono, Koji Yonehara, Yasutaka Sumida, Noritaka Mizuno
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Journal Title
Journal of Power Sources
Volume: 287
Pages: 220-225
DOI
Peer Reviewed
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