2016 Fiscal Year Research-status Report
核酸代謝阻害との合成致死性に基づいた新しい神経芽腫治療法の開発
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15K18442
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
清成 信一 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (70570836)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 合成致死 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は小児がんの一種である神経芽腫の中でも極めて予後の悪いMYCN遺伝子増幅型のがん細胞の増殖を特異的に抑制する「合成致死遺伝子」を標的とした新規治療法開発に取り組んでいる。独自の遺伝子ノックダウンスクリーニングの成果からデオキシチミジン三リン酸(dTTP)の生合成経路に関与する遺伝子群が合成致死現象を引き起こすことを見出した。本研究ではsiRNAを用いた候補遺伝子のノックダウンや既存の阻害剤を用いることで最も有望な合成致死遺伝子を同定するとともに本現象の詳細な分子メカニズムの解明を行う。 dTTP合成経路に関与する酵素のなかでもチミジル酸シンターゼを標的とする5-フルオロウラシルやジヒドロ葉酸レダクターゼを標的とするメトトレキサートは各種のがんに対する治療薬として古くから使用されているものの、神経芽腫において用いられることはない。そこで、本研究によりMYCN遺伝子増幅型の神経芽腫に対する有効性が確認されれば、これら既存の抗がん剤の適応拡大につながる可能性がある。実際に様々な阻害剤を用いて神経芽腫細胞の増殖抑制能を評価したところ、これまでに報告されていたメトトレキサートのみならず、他のdTTP合成経路に対する阻害剤でも合成致死性が確認された。また、dTTP合成経路に関与する酵素群の中でチミジル酸シンターゼやジヒドロ葉酸レダクターゼの抑制よりも顕著ながん細胞増殖抑制効果が得られる分子を見いだしている。これらの新規治療標的分子に対する阻害剤スクリーニング系を構築して新規な阻害化合物の探索を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
様々な阻害剤によってdTTP生合成経路を抑制することで神経芽腫細胞内でのDNA合成の停止のみならず、dUTP濃度が相対的に上昇することによって染色体DNAへのウラシル塩基の取り込みが促進される。DNA塩基除去修復機構の働きで大量のウラシル塩基が除去される過程でDNA鎖の切断とDNA損傷応答が引き起こされることを確認した。また、ジヒドロ葉酸レダクターゼの阻害剤であるメトトレキサートに対する感受性はMYCN遺伝子正常の神経芽腫細胞よりもMYCN遺伝子増幅型の神経芽腫細胞のほうが高いことが報告されているが、これまで提唱されてきたようにメトトレキサートを細胞内に取り込むキャリア分子の発現量の差によらないことを証明した。一連のDNA損傷応答がMYCN遺伝子増幅型の神経芽腫細胞において亢進する分子メカニズムについても代替となる有力な仮説を持っており、現在、検証実験を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、本現象の分子メカニズムの解明に取り組む。LC-MSなどの手法を駆使して染色体DNAへのウラシル塩基の蓄積と排除の時間経過を観察し、MYCN遺伝子の増幅の有無によるDNA損傷応答の差を観察する。また、既存の阻害剤を用いて神経芽腫発症モデルマウスやゼノグラフトモデルマウスに対する薬効評価を行うことで非臨床でのコンセプトの実証を行う。
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Causes of Carryover |
前年度までに合成致死の現象を深く観察し、その分子メカニズムを解明する過程では安価な阻害剤を用いた実験が当初の計画よりも多く、予定していた額の消耗品費を使用しなかった。また、新規阻害剤のスクリーニングの実施が計画よりも遅れたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
合成致死現象の解明にむけてLC-MSなどの高額な機器分析を行うと同時に神経芽腫モデルマウス、ゼノグラフトモデルマウスなどのin vivo実験を実施するために使用する。
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