2015 Fiscal Year Research-status Report
ATR-CDC6系を介した内因性複製ストレス応答によるゲノム安定性維持機構の解明
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15K18478
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉田 和真 九州大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80715392)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | DNA複製 / 複製チェックポイント / ATR / 複製ストレス / クロマチン結合 / 細胞周期 / ゲノム安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA複製フォークの停止は、一本鎖DNAの露出やDNA二重鎖切断につながり、染色体不安定性の一因となる。ATRは、生存に必須の複製チェックポイントキナーゼである。複製ストレス応答の最新のモデルにおいて、ATRは一本鎖DNAに結合したRPA依存的にストレス部位に呼び込まれ、そこでRad9やTopBP1等の補助因子の働きによって活性化されて機能を果たすと考えられている。しかし、通常の細胞増殖におけるATRの機能と活性化については不明な点が多い。平成27年度は下記の2つのアプローチにより、種々の複製ストレス条件下におけるヒトATRおよびその関連因子の染色体結合を解析した。
1. ATR関連因子の複製ストレス高感受性部位への結合動態の解析: クロマチン免役沈降-定量PCR (ChIP-qPCR)法により、外的複製ストレス有無の条件下においてATR関連因子のクロマチン結合を調べた。その結果、ATRの活性化因子Rad9やTopBP1が、外的ストレスのない時にも染色体脆弱部位(CFS: Common Fragile Site)や初期複製開始領域に結合していた。これは、通常の細胞増殖における内因的な複製ストレスへの応答を反映しているのだろう。
2. 人工的な複製フォーク停止システムを利用した複製ストレス応答の解析: ヒトゲノムに挿入したlacOリピート配列へのLacIタンパク質の結合により、そこに一本鎖DNAが生じ、ATR及びその関連因子(RPA, ATRIP, TopBP1)がリクルートされることを、免疫蛍光染色法及びChIP-qPCR法により明らかにした。これは、lacO配列においてLacI結合に依存した局所的な複製ストレスが生じることを示唆している。また、CDC6およびATM経路やファンコニ経路の因子の集積も認められたため、現在は、これら応答の時系列と依存性の解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. まず、ATRのクロマチン結合についてChIP法による解析を試みた。しかし、ATRタンパク質が分解され、免疫沈降を行うことが難しかった。種々の試行を経た現在でも至適条件には至っていない。そこで、計画を変更しATR活性化に関わる他の因子のChIP解析を進めた。その結果、Rad9、TopBP1が、外的ストレスのない時にもCFSなどの複製ストレス高感受性部位に結合していた。
2. 染色体上にlacOリピートを保持するヒト培養細胞を用いて、LacIの結合したlacOリピートにおいて一本鎖DNAの露出とATR関連因子の集積が誘導されることを示した。加えて、p-ATM (Ser1981), γH2AXやFANCD2, FANCAの集積も認められた。現在は、これらのDNA損傷応答の詳細な時系列や依存性を検討するために、タモキシフェン誘導型のER-LacIを作製し解析を進めている。 また、この系を利用して本研究の目的の一つである複製開始制御タンパク質CDC6のATR経路への関与について解析した。CDC6は、ATR同様に、LacIの結合したlacOリピートに集積し、CDC6が複製ストレス応答に関与するという我々の作業仮説が支持された。しかしsiRNAによる発現抑制実験やCDC6-LacIを用いた実験から、本系ではCDC6のATRリクルートへの直接関与は低いことが示唆された。
このように実験は着実に遂行できており、特にlacO-LacIシステムを利用した系において、LacI結合に依存して種々のDNA損傷応答が誘導されることが明らかになったことは大きな進展であった。したがって、いくつかの変更はあるものの、全体としてはおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
通常の細胞増殖における内因的複製ストレスへの応答機構の理解に向けて、平成28年度は特にRad9のクロマチン結合を中心に解析を進めたい。具体的には、外的ストレスがない時のクロマチン結合の細胞周期特異性や他のATR関連因子との依存関係を引き続きChIP-qPCR法により検討する予定である。また、ChIP-seqによるゲノムワイドな解析にも取りかかり、内因的ストレスがどこで生じるのかを明らかにしていく。 また、LacI結合が誘導するlacOリピートでのDNA損傷応答について、前述の通りER-LacIを利用することにより詳細な時系列を解析する。予備的検討において、LacI集積によるストレス誘導後、早いタイミングでRPAとFANCD2がlacO配列に集積することが示唆されている。平成28年度は、これらの集積がATRやATMの活性化に対して、どのような順序で発生するのか、どのような依存関係にはあるのか等を解析する。lacO-LacIのようなDNA-タンパク質複合体とDNA複製フォークが衝突した時に、どのような損傷・応答が起きるのかは未だ明らかではない。これらの解析を通して、複製フォークブロックに対するストレス応答経路の詳細を示すことができれば、非常に興味深い。 lacOへのLacI結合が複製フォークブロック以外のダメージ要因となっていれば、S期以外にもストレスとなる可能性がある。そこで、細胞周期の同調と組み合わせた実験により、細胞周期ごとのLacI結合への応答について調べる。
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Causes of Carryover |
上述したように、ChIP法によるATRのクロマチン結合解析は難しいことが判明し、その条件検討や他のATR関連因子のChIP解析にやや時間を取られた。そのため、一部の解析が平成28年度にずれ込んだ。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述した今後の研究方策に従い、平成28年度の研究費と併せ、研究の推進のために適切に執行していきたい。
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