2015 Fiscal Year Research-status Report
DNA二本鎖切断修復経路の選択におけるコアヒストンの役割
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15K18481
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Research Institution | Tohoku Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
中林 悠 東北薬科大学, 薬学部, 助手 (10710361)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | DNA修復 / ヒストン / クロマチン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、DNA二本鎖切断の修復経路である相同組換え修復(HR)と非相同末端結合(NHEJ)のそれぞれに重要な役割を担うヒストン残基を、出芽酵母ヒストン点変異体ライブラリーを用いた網羅的な解析から同定することを目指した。はじめにHRに必要なヒストン残基を同定するために、rad27欠損株において増殖能悪化を示すヒストン点変異体をスクリーニング解析した。解析した48点変異体中、H2A点変異体2株、H2B点変異体1株、H3点変異体5株、H4点変異体2株が致死性、または顕著な増殖能の悪化を示した。これらの点変異体がDNA修復反応に異常を示すかを、染色体DNA修復反応の進行を測定できるパルスフィールドゲル電気泳動により、さらに解析した。その結果、H2A点変異体ではDNA修復反応の遅延が観察された。また、ヌクレオソーム構造中で近接した位置にあるH3点変異体とH4点変異体では、DNA修復反応が野生型よりも早まるような傾向が観察された。 これらの修復異常がDNA修復チェックポイントの機能不全に起因しているかを調べた。Rad53のリン酸化やDNA複製の再開を指標に解析したが、いずれも正常に機能していた。次に、HOエンドヌクレアーゼにより人工的にDNA二本鎖切断を誘導できる酵母株を使用し、ヒストン変異によりHRのどの反応に影響が生じているかを調べた。その結果H2A点変異体では、HRの初期反応である末端削り込みの進行が阻害されていることが明らかとなった。さらに、露出した一本鎖DNAに結合するRad51の集積も抑制されたことから、このH2A残基はHRが進行するための初期段階である末端削り込み反応に必要であることを示すことができた。また、H3変異体ではHRの進行が阻害され、NHEJ因子の欠損と合成致死となった。このため、これらの残基はHRによる修復反応を進めることに必須であると予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
rad27欠損と合成致死性を示すヒストン点変異体のスクリーニング解析を行うことで、本研究の第一段階である相同組換え修復(HR)に必要とされる可能性があるヒストン残基を複数同定することができた。 スクリーニング解析より同定されたこれらのヒストン点変異体について、DNA修復反応の進行をパルスフィールドゲル電気泳動により観察することで、DNA修復反応の進行に遅延が生じていると思われるヒストン点変異体を得ることができた。その一方で、野生型よりもDNA修復反応が早く進行していると考えられる興味深いヒストン点変異体も同定することができた。 これらのヒストン点変異体での詳細な修復反応を調べるために、HOエンドヌクレアーゼによる二本鎖切断を誘導できる酵母株を新たに樹立した。この株を用いることで、DNA損傷部位への修復因子の集積やHRの進行にヒストン点変異が与える影響を解析することが可能になった。実際にH2A残基がHRの初期反応である末端削り込みに必要であることがわかった。以上より、概ね順調に当初の計画通りに進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
DNA修復反応が野生型よりも早く進む可能性を示すヒストン点変異体が得られている。このヒストン点変異体では、相同組換え(HR)の中間体構造が形成されにくいこと、NHEJ因子の欠損と合成致死または増殖能悪化が観察されることから、HRではなくNHEJによる修復が優先して起きている可能性が考えられる。この原因を同定することは、HRとNHEJとのDNA修復経路がどのように選択されるのかについて、ヒストンおよびクロマチンレベルでの解明につながると考えられる。この点を明らかにするために、HRやNHEJにそれぞれ関わる因子が、ヒストン点変異体においてDNA損傷部位に正常に局在しているのかを調べる。また、これらのヒストン残基はヌクレオソーム内部に位置するため、DNA損傷部位のクロマチン構造変換に関わることも予想される。多くのクロマチンリモデリング複合体がDNA損傷部位に集積するという報告があることから、これらのヒストン点変異体でDNA損傷部位のクロマチン構造に異常が生じていないかを解析する。 また、HRの円滑な進行に必要なH2A残基は、高等生物のH2AおよびDNA修復に関わるヒストンバリアントH2A.Xにおいて保存されている。この残基のHRに果たす機能が保存されているかを、培養細胞において変異ヒストンを発現させることで確認する。
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Causes of Carryover |
ヒストン点変異体が示すDNA修復能の異常が、DNA修復因子の転写制御の破綻に起因している可能性がある。この点を明らかにするために、ヒストン点変異体でのDNA修復遺伝子の転写量を網羅的に解析する必要が出てきた。この解析を行うための費用として、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ヒストン点変異がDNA修復遺伝子の転写制御に与える影響を解析するため、各遺伝子の転写量を逆転写反応と定量PCRにより解析を行う予定である。この解析に必要となる出芽酵母RNAの調製、および逆転写反応に必要な酵素、キット類を購入するための費用として使用する予定である。
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