2015 Fiscal Year Research-status Report
抗パーキンソン病薬の設計に向けた作動薬結合型ドーパミンD1受容体の構造機能解析
Project/Area Number |
15K18486
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 孝彰 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (70712751)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | タンパク質構造安定化 / キメラタンパク質 / 部位特異的変異導入 |
Outline of Annual Research Achievements |
パーキンソン病などの運動障害に対して処方されるドーパミンD1受容体を標的とした治療薬の多くは,ドーパミンD2受容体にも非選択的に作用することで,副作用が生じることが懸念される.D1受容体に対して選択性の高い薬剤を合理的に設計するためには,D1受容体の立体構造を原子レベルで決定し,リガンドの結合様式を詳細に明らかにすることが重要である.本研究では,D1受容体とD1受容体に対して選択的に作用するリガンドとの複合体の立体構造を明らかにすることで,D1受容体を標的とした新規薬剤の開発を推進するための基盤情報を得る. 平成27年度は,D1受容体とリガンドとの複合体の構造解析に向けて,当該複合体の結晶を作成することを目指した.出芽酵母による相同組み換えを利用した組み換えD1受容体の作成を行い,良好な単分散性を示す発現コンストラクトを蛍光ゲル濾過法で選別した.細胞膜外に位置する受容体のループ領域を可溶性のcytochrome b562RIL(bRIL)やglycogen synthaseに置換した融合体や,熱安定性を向上させる実績のある変異を導入した変異体において良好な単分散性を示した.単分散性の良い組み換え発現コンストラクトは,メタノール資化酵母(Pichia pastoris)と昆虫細胞(Sf9)による発現系を利用して大量発現させ,多段階のアフィニティクロマトグラフィーにより精製した.しかし,発現した受容体はいずれも,界面活性剤を用いて細胞膜から抽出する際に大部分が変性してしまうため,結晶化に使用するだけの精製標品を得ることは困難であった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度に計画していたD1受容体の結晶化を達成できなかったためである.安定なD1受容体の探索には,融合する可溶性タンパク質の種類や融合する位置,熱安定化変異の導入箇所を変えた組み換え発現コンストラクトを網羅的に調査する必要があり,多くの時間を要したことに加えて,当初予定していなかったD1受容体とは異なるアミン受容体の構造解析を並行して行ったことに起因する.新たな受容体の構造解析に着手するに至った経緯は,ドーパミンと異なるアミン系化合物を結合する受容体の構造情報が,D1受容体の立体構造に対する比較対象としての有用な知見を与えると期待されたからである.この受容体に関して,細胞膜外のループを可溶性のタンパク質で置換した複数種の融合体を設計し,発現,精製,結晶化を行ったところ,短期間のうちに初期結晶が得られた.結晶化溶液に含まれる添加剤やpHなどの結晶化条件を最適化することで,2.7Å分解能を与える結晶が得られた.複数の結晶から回折データを収集し,構造を決定した結果,リガンドの結合様式を詳細に解明することができた. 以上のように,D1受容体と新たに着手したアミン受容体の進行状況を鑑み,後者の受容体の構造解析に注力したことで,D1受容体を対象とした研究の進行に遅延が生じた.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,D1受容体の構造解析に向けて,結晶化に使用するための精製標品を安定に供給することが肝要である.しかし,現行の発現コンストラクトの安定性は十分でないため,まずは,発現コンストラクトの最適化に尽力する他,可溶化条件を検討するといった対策を講じる.最適な発現コンストラクトが作成できた際には,発現,精製,結晶化へと進める.一方,既に構造解析を行った受容体に関しては,結果を取りまとめ,学会発表や論文投稿により成果を発表する.
|
Causes of Carryover |
実験の進行状況から,細胞培養用培地や結晶化用の消耗品に計上した分の支出が当初の予定より大幅に減ったため.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の組み換えD1受容体の生産と論文投稿の際に必要となるデータを集めるために使用する.
|