2015 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質の中性子構造解析による重水素化および測定温度の影響評価
Project/Area Number |
15K18494
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
平野 優 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 博士研究員 (80710772)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 蛋白質 / 中性子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質やその周囲の溶媒の水素原子まで含めた構造情報を取得しなければ、タンパク質の機能の本質に迫ることは困難である。タンパク質の中性子構造を用いその機能を議論する上では、重水置換や測定温度による影響を明らかにすることが重要な課題となっているが、これまでに精密な検証はなされてこなかった。そこで本研究では、重水置換や測定温度による構造変化を明らかにし、測定条件による影響の実態を解明する。 平成27年度は、高電位鉄硫黄タンパク質を用い、軽水溶液環境で大型結晶の作製を行った。軽水溶液環境で作製した結晶は、重水溶液環境で作製した結晶に比べ中性子回折データのバックグラウンドが高くなると考えられる。これまで重水溶液環境で作製した体積1立方ミリの結晶を用い、100 Kの窒素気流中で凍結した条件で1.1オングストローム分解能の中性子回折データセットを取得することができている。軽水溶液環境で作製した結晶を用い、そのような高分解能の中性子回折データを取得するためには、重水溶液環境で作製した結晶より大型でかつ良質な結晶を作製する必要がある。軽水溶液環境における大型結晶作製は、種結晶を成長させるマクロシーディング法により行った。種結晶の大きさや、結晶成長溶液の溶液量、タンパク質濃度、pHを詳細に検討することで、体積2立方ミリ程度の良質な大型結晶を取得することができた。軽水環境で作製した大型結晶は、抗凍結剤としてグリセロールを含む抗凍結溶液環境に段階的に置換した。その後、100 Kの窒素気流中で凍結しながら実験室X線を用いた予備的な回折実験を行い、高分解能の回折データを取得できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は、高電位鉄硫黄タンパク質を用い、軽水溶液環境において大型結晶の作製、大型結晶の抗凍結溶液置換方法の検討、中性子回折データ収集を行い、構造解析を行う計画であった。 これまでに重水溶液環境で作製した大型結晶(体積1立方ミリ)を用い、1.1オングストローム分解能の中性子回折データを取得している。軽水溶液環境で作製した結晶は、中性子回折データのバックグラウンドが大きくなると考えられるため、重水溶液環境で作製した結晶より大型の結晶が必要になると考えられる。軽水溶液環境における大型結晶の作製は、種結晶を成長させるマクロシーディング法により行った。種結晶の大きさ、結晶成長溶液の溶液量、タンパク質量、pHを詳細に検討することで、重水溶液環境で作製した結晶より大型の体積2立方ミリを越える結晶を取得することができた。高分解能の回折データを取得するためには、原子の揺らぎを抑えるため結晶を100 Kの窒素気流中で凍結しながら回折データ収集を行うことが重要であると考えられる。そのため、大型結晶周りの溶液を抗凍結溶液に置換する必要がある。その際、結晶の劣化を抑えるため抗凍結溶液に段階的に置換する方法を採用した。その後、実験室X線を用い予備的回折実験を行い、高分解能データを取得できる抗凍結溶液への置換方法を決定した。しかしながら国内、国外の施設を含めビームタイムが割り当てられず中性子回折データを取得することはできていない。
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Strategy for Future Research Activity |
大強度陽子加速器施設J-PARCまたは国外の施設においてビームタイムが割り当てられれば、軽水溶液環境で作製した高電位鉄硫黄タンパク質の大型結晶を用い中性子回折データ収集、構造解析を行う。構造精密化は、タンパク質の中性子構造解析で適用されている中性子回折データとX線回折データを同時に利用する方法で行う。そのために中性子回折データを取得した同一の結晶を用い、類似の条件で放射光施設においてX線回折データ収集も行う。 J-PARCの生命科学用ビームライン(BL03)においては、白色中性子を用いたTOF(time-of-flight)-Laue法により回折データ収集を行う。TOF-Laue法により取得した中性子回折データは、単波長の中性子を用いて取得した中性子回折データに比べ、データの精度が低くなる傾向がある。そのため現在、TOF-Laue法により取得した中性子回折データの精度を向上することが課題となっている。今後、高電位鉄硫黄タンパク質の軽水溶液環境で作製した結晶を用い、TOF-Laue法により中性子回折データを取得した際にも、回折データ精度の向上は重要である。そこでこれまでに重水溶液環境下で作製した高電位鉄硫黄タンパク質の大型結晶を用いTOF-Laue法により取得した高分解能の中性子回折データを利用し、中性子回折データの精度向上を試みる。中性子回折データの精度向上が実現した場合は、ビームライン担当者と連携し、回折データ処理プログラムの改良を行う。
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Research Products
(2 results)