2016 Fiscal Year Research-status Report
小胞体ストレスで発動するDerlin-3の分子機能と細胞保護効果の解明
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15K18510
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
樋口 由佳 (江浦由佳) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (30443477)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 小胞体関連分解 / 小胞体ストレス / ERAD / Derlin-3 / Herp / Derlin |
Outline of Annual Research Achievements |
小胞体は分泌タンパク質や膜タンパク質の合成と成熟を担っており、その過程では酸化ストレスや低酸素状態など様々な理由で成熟できない不良品が生じる。小胞体関連分解(ER-associated degradation: ERAD)は小胞体が持つタンパク質の品質管理機構であり、小胞体膜や内腔に生じた構造異常タンパク質(ERAD基質)を分解除去する。 本研究では、ERADに関与するDerlin-3に注目して研究を実施している。これまでに我々は、低酸素ストレスに対する適応応答において、Derlin-3欠損およびHerp欠損マウスが野生型と比較して生存率の低下を示すことを明らかにしてきた。また、その一方で、Derlin-3を含むERAD複合体のメカニズムについての解析も進め、マウス肝臓における ERAD複合体の構成と調節について新たな結果を得てきた。 平成28年度は、低酸素ストレス解析において、心臓や肺の組織切片試料を作製してHE染色やマッソントリクローム染色などを実施し、野生型とDerlin-3欠損マウスとの比較解析をおこなった。その結果、肺組織に大きな違いは見られなかったが、心臓組織における血栓や線維化がDerlin-3欠損マウスで顕著であることが分かった。また、ERAD複合体解析においては、肝臓での解析に続き、膵臓の解析を進めた。肝臓では、小胞体ストレス存在下でのみ発現が確認できるが、膵臓においては、定常状態でDerlin-3の発現が確認できる。免疫沈降による複合体解析を実施した結果、膵臓のERAD複合体は、肝臓の小胞体ストレス誘導時と同様の構成であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、Derlin-3の生理機能については、Derlin-3のタンパク質発現が非常に限られているため、ほとんど分かっていなかった。しかし、我々はDerlin-3欠損マウスを作製・解析し、Derlin-3のみが示す特徴的な発現様式やDerlinファミリーを含む複数種のERAD複合体を独自に見いだしてきた。 昨年度は、低酸素環境への適応と生存にDerlin-3が重要であることを初めて見出した。また、Derlin-3の結合因子であるHerpにおいても同様の結果を得ており、これらのERADにおける協調した働きが低酸素ストレスの克服に重要であることが示唆された。 今年度は、昨年度の解析結果からさらに発展させ、低酸素ストレスにおけるDerlin-3の脆弱性を示す結果として、心臓組織切片における血栓や線維化の増悪といった異常を発見することが出来た。また、分子メカニズムレベルの解析として、ERAD複合体の組織による存在様式の違いを示すデータを得ることができ、我々が見出したERAD複合体調節の重要性をさらに発展させることができた。 以上のように、本研究により、Derlin-3の生理的重要性や分子機能解明につながる結果が得られており、今後の発展も期待できることから、順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の解析で得られた、低酸素ストレスに対する適応におけるDerlin-3やHerpの重要性について、脆弱性の分子メカニズムに迫る解析をさらに進める。具体的には、野生型とDerlin-3およびHerp欠損マウスで、心臓等の組織切片染色での比較や、血栓の出来やすさや炎症反応などの経路の活性化等の比較をおこない、違いの有無を検証していく。また、代謝経路など、ストレス克服に関連する経路への、Derlin-3およびHerp欠損の影響も探索していく。これらと並行して、Derlin-3およびHerpを含むERA因子複合体の、肝臓や膵臓を用いた組織間での構成や調節の比較や、各欠損がERAD複合体やERAD活性に及ぼす影響について詳細に解析を進めていく。Derlin-3の生理的重要性をさらに明らかにするべく、個体レベルでの解析と細胞レベルでの解析を組み合わせ、効率的に研究を実施する計画である。
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Causes of Carryover |
研究の進行上、予定していた実験内容が一部変更となり、物品費が当初の予定よりも少なく済んだため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の計画で、「欠損マウスにおける血栓の出来やすさ等の血行動態に関連する指標や炎症反応」を調べるためには、検査薬やキットなど高価な消耗品を使用する必要があるため、昨年度よりも多く物品費が必要となる予定である。そのため、平成29年度の予定額に加えて次年度使用額を利用することで、円滑に研究を進めたいと考えている。
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[Book] 生化学2017
Author(s)
宮田敏行,樋口(江浦)由佳,杉本充彦
Total Pages
10
Publisher
公益社団法人 日本生化学会