2015 Fiscal Year Research-status Report
概日時計における頑健性と可塑性の互恵関係の理論的解析
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15K18512
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畠山 哲央 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (50733036)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 頑健性 / 可塑性 / 力学系 / 適応 / 理論生物物理学 / システム生物学 / 時間生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
概日時計は周期の温度・栄養補償性(周囲の温度や栄養状態が変化しても、概日時計の周期がほぼ24時間に保たれるという性質)、つまり周期の頑健性を示す。同時に、概日時計は周囲の温度変化や栄養濃度変化に素早く位相を合わせることができる、つまり位相の可塑性を示す。本研究の目的はこの周期の頑健性と位相の可塑性が両立するための原理を理論的に解明することであった。 まず、1年目の研究計画として、翻訳後振動子と転写翻訳振動子という二つの振動のメカニズムが全く異なる概日時計の数理モデルにおいて見出された周期の頑健性と位相の可塑性の互恵的関係が、他のモデルにおいても観察されるかという問題の解決を提案した。昨年度の研究によって、van der Pol振動子という一般的によく用いられる非線形振動子のモデルにおいて、同様な互恵的関係が見出されることが分かった。これは、非線形振動子の幅広いクラスにおいて互恵的関係が見出されることを示唆する結果であった。 また、2年目の研究計画として、互恵的関係を解析するためのミニマルモデルの探索と、互恵的関係の解析的導出を提案した。昨年度の研究によって、互恵的関係が成り立つミニマルなモデルとして、振幅と周波数のたった2因子によって成り立つStuart-Landau振動子が適切であることを発見し、互恵的関係を解析的に導出することができた。また、これにより頑健性と可塑性の互恵的関係が概日時計だけでなく、他の生命現象においても、幅広く観察される可能性が示唆された。 上記の結果は論文にまとめられた上で、Physical Review Letters誌に発表された。またPhysics web pageにその論文が取り上げられるなど、幅広い反響を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、1年目でありながら、2年目に実施する予定であった研究まで終了した。また、それらの研究内容をPhysical Review Letters誌に発表することができた。よって、当初の計画以上に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度からは、当初の3年目の研究計画である概日時計の頑健性と可塑性の進化の問題を取り扱い、頑健性と可塑性の互恵的関係を進化的な見知から論じることを試みる。また、昨年度までの研究において、頑健性と可塑性の互恵的関係というコンセプトを概日時計以外の生命現象に広げる可能性が示唆された。来年度以降は、より深く、また広く頑健性と可塑性の互恵的関係に関する研究を行う。
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Causes of Carryover |
研究の進展が予定より大幅に早く、国際学会等で発表する機会が多かったため、予定していた計算機を購入する予算が足りず、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計算機を購入する予定であるが、研究の進展状況によっては論文出版費や国際学会などへの参加のための旅費として使用する。
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