2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K18521
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 直幸 大阪大学, たんぱく質研究所, 特任助教 (00634677)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 構造解析 / ウイルスの感染機構 / 分子認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、精製した黄色ブドウ球菌ファージを用いて、ファージ単体での構造解析に取り組んできた。 これまでの我々の位相差クライオ電子顕微鏡を用いた研究により、黄色ブドウ球菌ファージS6の尾部先端には、他の細菌に感染するファージとは異なる特殊な非常に長い針状構造があることが判明していた。ファージの尾部先端には、ファージが宿主を認識する分子装置があることから、その構造情報はファージの宿主認識の仕組みを理解するには非常に重要である。そこで、その3次元構造を決定するために、クライオ電子線トモグラフィーのデータを複数セット取得した。そのデータを使って、現在3次元再構成の計算を進めている。 一方で、そのS6で見つかった特殊な尾部の構造が、ブドウ球菌ファージ間で保存されているのかどうか調べた。S6ファージの場合と同様に、位相差クライオ電子顕微鏡を用いて、他のS13’、S25-3ファージを観察した結果、それらのファージには、S6ファージに見られたような針状構造体は無いということが判明した。これは、同じブドウ球菌ファージでも、それぞれが異なる宿主認識機構を有していることを示唆している。 そこで、研究対象をS6だけに絞らずに、広くブドウ球菌ファージ全般を対象とすることに変更した。S13’ファージの構造解析を進めた結果、ファージ頭部の構造を0.9 nm分解能で決定することに成功した。また、ファージの尾部までを含めた全体構造を決定するために、位相差クライオ電子顕微鏡写真を200枚以上撮影し、3次元構造を再構成するのに必要なデータを取得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、精製したS6ファージを用いて、その尾部も含めた全体構造を決定することを予定していた。 S6ファージの頭部の構造に関しては、2.5 nmの分解能での構造解析に成功し、T =27の対称性をもつ構造であることが判明した。この構造は、緑膿菌に感染するPhiKZ、青枯病菌PhiRSL1、エルシニア菌Phi1-37という巨大ファージと同じであった。このことはこれらの巨大ファージ群が進化的な関連性を持っていることを示唆した。実際に、共同研究者らによるゲノム解析の結果からも、これらの巨大ファージ群に進化的な関連性が見出されている。これらの結果については、論文投稿にむけて現在執筆中である。さらに詳細な頭部の構造を決定するために、現在電子直接検出型検出器を備えた最先端クライオ電子顕微鏡による構造解析を進めている。 尾部の構造に関しては、まだ決定することはできていないが、それらの解析に必要なデータの収集は終え、解析も順調に進みつつある。 また、同じ黄色ブドウ球菌ファージS13’の構造解析は、本来の予定にはなかったが、頭部の構造決定には、0.9 nmの分解能で既に成功した。現在、その決定した構造を詳しく調べている。S13’ファージにおいても、尾部の構造を決定するためのクライオ電子顕微鏡のデータ取得に関しては、S6ファージ同様に取得済みであり、現在解析を進めている。従って、本来予定していた計画は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度末に、電子直接型検出器を備えた最先端のクライオ電子顕微鏡が所属する研究施設に導入された。それに伴い、当初予定していたよりもさらに高分解能での構造解析を進めることができる状況になった。そこで、既に低~中分解能での構造決定に成功しているS6およびS13’ファージの頭部の構造に関しても、その最先端電子顕微鏡を用いて、データの取得並びにその構造解析をさらに進めていくことにする。 既に、その最先端クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析では、あるウイルス様粒子の構造を、原子分解能である0.35 nmの分解能で決定することに成功している。その構造では、構成タンパク質の主鎖だけでなく側鎖の構造もきちんと可視化できている。この構造解析の結果は、本研究で用いているブドウ球菌ファージの構造解析にもそのまま応用することができるため、本研究対象でも原子分解能にせまる解像度での解析が今後期待できる。 これは、当初の研究計画にはなかったが、原子分解能での構造解析に成功すれば、得られる情報が飛躍的に増えるため、本研究での最重要課題として取り組んで行くことにする。平成27年度中には、頭部の原子構造を決定し、最終年度である平成28年度末までに、ファージ全体の原子構造を決定することを目標とする。 また、精製した試料の構造だけでなく、実際に宿主に感染中の構造解析にも、当初の計画どおり、取り組んでいく。そして、感染過程でのファージの分子装置の構造変化や動作メカニズムの理解を目指す。
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Causes of Carryover |
論文投稿の際に生じる英文校閲などの費用として考えて予算を計上していたが、平成27年度は論文作成が間に合わなかったので、次年度に使用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定どおり、論文作成の際の経費をして次年度に使用する。
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Research Products
(2 results)