2016 Fiscal Year Research-status Report
分子モーターの力応答を通じた協同的な輸送現象の基礎づけ
Project/Area Number |
15K18524
|
Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
鳥澤 嵩征 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 研究員 (60749406)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 分子モーター / ダイニン / キネシン / 細胞内輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内の状態に近いモーターの運動を観察するため,細胞内におけるダイニンの活性化因子として知られているダイナクチンとのアダプタータンパク質であるBicaudal D2, およびHook1をクローニング・精製することを試みた.精製した活性化因子をダイナクチンと共にダイニンと混合し,その一方向性運動を観察,運動速度や微小管滞在時間を計測した結果,多体ダイニンの一方向性運動と同様に単独のダイニン分子の拡散運動と共通する速度分布の裾野の広がりが確認された.これは,細胞内で機能している際のダイニンの運動に拡散が寄与している,さらに言えば拡散運動を整流することによって一方向性の運動を達成していることを示唆する結果であり,分子モーターの運動メカニズム一般の理解にも寄与しうる結果を得ることができたと考えている. また,細胞内輸送の試験管内再構成の方法として,精製タグとGFPを付加したRab5aを発現させた細胞から小胞を精製し,その運動を観察するということを試みた.細胞の破砕方法や精製時の遠心条件を検討することで,実際に小胞の運動をin vitroにおいて観察することができた.現状では観察数や分子数の同定などの問題はあるが,やはり運動速度分布における顕著な裾野の広がりが確認されており,前段の結果と合わせて,細胞質ダイニンが関与する輸送現象において微小管上での分子拡散が利用されている可能性を示唆しているものと考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究においては,通常の運動観察実験と外部からの力学的摂動に対する応答の計測の結果をあわせることで,分子レベルの性質から多数のモーターによって行われる輸送現象を説明することが眼目になっている.本年度までの実施内容によって,受動的な観察としての種々の状況における運動観察・解析には着実な成果の積み重ねをすることができたが,力学応答の計測およびDNAを用いた数制御の実験については実質的な結果がまだ出ていない.前者については,数pN以上の比較的強い力に対するダイニン分子の力学応答の計測データは得られているが,弱い力領域におけるデータ取得が現状の実験系では困難であるという問題がある.後者については,タンパク質の精製量に基本的な問題があり,どちらの問題についても最終年度における改善が必要である.
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況に記したように,DNAによる数制御と力学応答の計測という当初の予定に従った実験系における問題の存在が明らかになってきたが,実験系とタンパク質精製量の問題を改善することをまず試みていきたいと考えている.一方で,弱い力領域については外挿する必要はあるものの,ダイニンの力学応答の性質については,既に基本的な性質が見えてきている.これをキネシンに対しても行うことで現状における輸送現象のある程度のモデル化は可能であると考えており,現実的な方策としてそういった方向性も検討していきたい.また,本年度までに成果が見られた実験系においても観察数を増やしていくことで「一方向性運動における拡散の寄与」という現状の仮説を着実に検証していきたいと考えている.
|
Causes of Carryover |
当該年度までの進捗状況に記したように,DNAによる数制御実験に関する進捗の遅れが生じており,それに伴って試薬購入費が当初の予定額よりも抑えられた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の使用予定に従い,オリゴDNAの購入に充てる.
|