2017 Fiscal Year Research-status Report
「エサの喰い方」の多様化から見た木材腐朽性キノコ類の進化の解明
Project/Area Number |
15K18596
|
Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
早乙女 梢 鳥取大学, 農学部, 准教授 (90611806)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 白色腐朽菌 / 木材分解 / きのこ / 分子系統解析 / サルノコシカケ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 強力な腐朽力を有する白色腐朽菌で構成されるタマチョレイタケ科菌を材料に, 詳細な系統関係と各種の木材分解に関する特性を明らかにすることで, 未解明な木材分解様式と系統的な相関を検証する. 平成29年度は, 木材腐朽における特性の組織学的な検討に関する予備実験を重点的に実施した。一部の種の菌株を用いて, ブナ材片の腐朽分解を実施し, 木材組織の分解プロセスとリグニンおよびセルロースの変化を経時的に観察することで特徴づけを試みた。また, 来年度の本試験の実施に向け, 適正な試験期間を検討したほか , 各菌株の腐朽力と分解プロセスとの相関も検証した。その結果, 今年度の試験に供試した種については, リグニン分解酵素の活性と同様に菌株レベルで, 腐朽力には差があった.しかし, 木材の組織学的な分解プロセスについては, 種レベルで安定しており, 共通性があることが示唆された。さらに, 一部の種では材内に厚膜胞子を形成するなど, 特徴的な現象も明らかとなった. 国内調査を実施し, サンプルの拡充を行った一方で, 海外生物資源の国内への移動については断念した.しかし, 海外のカウンターパートの協力の下, 分子系統解析に使用するための海外産木材腐朽菌のサンプル収集, 生態的な調査を実施し, また, 現地の研究室で必要な分子実験を実施することで, 日本に生物資源を移動することなく, 15標本のLSUおよびITS領域のシークエンス配列し, これらを今後の実験に利用できるようになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
木材腐朽力や分解プロセスを確認するための実験は, 菌体に木材片を埋め込んでから120日 と長期に渡って継時的に観察するため, 多くの種の菌株で実験を行うには, 事前に実験系を確立する必要があった。今年度の予備実験を通して, 今後の木材分解プロセスを明らかにするための実験系を確立することができた。木材成分であるリグニンとセルロースを染色した上で, 木材組織の変化を観察することによって, 分解プロセスが種レベルで安定なことや特殊な構造を形成(厚膜胞子)することが確認された。これは, 来年度以降の研究における有用な基礎情報であると考えられる。海外産菌株を国内に移動することや, 木材分解特性に関するための実験に利用することは最終的に断念したが, 海外研究者の協力を得て,タマチョレイタケ科の詳細な分子系統関係を明らかにするために必要なDNA配列のデータは得ることができたことから, 「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で得られた分子系統樹を参考に, 実験に使用する種を選抜し, 種毎に複数菌株を用いた腐朽力試験, 木材分解プロセスの解明と特徴付けのための分解試験を実施する予定である。当初の研究計画では広葉樹に加えて, 針葉樹も含めた複数の樹種を試験に用いる予定であったが, ブナ材片を用いた予備試験の結果から, 今後の試験では, ブナと別の広葉樹1種(カシ属)を用いることとした。今後は, 平成29年度に得られた海外産種のデータを合わせた分子系統解析も実施しつつ, 不足している国内産種の生態情報の収集を実施する。明らかにしたタマチョレイタケ科の系統関係やこれまでの実験で得られた木材腐朽の特性を比較し, 木材分解の多様性と多様化の原動力, また, 進化への影響を考察していく。
|
Causes of Carryover |
今年度に予定していたよりも, クローニングやシークエンスなどの分子実験が少なく, 試薬購入代が少額となった。また, 論文執筆が遅れており, 英文校閲料がないためである. 来年度に試薬類を購入し, 実験を実施するとともに, 英文校閲の上で論文を投稿をする予定である.
|