2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K18597
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
辻田 有紀 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80522523)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 菌従属栄養 / ラン科 / 菌根菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで予備調査として、ジェネラリストの検証を行う対象種のタカツルランにおいて、菌根菌相を調査するために、自生地より菌根を採集し、分子同定法によって菌を特定する作業を行ってきた。しかし、サンプル数が限られていたため、本研究ではより広範囲の自生地でサンプルを採集し、菌根菌相の全貌を解明することを試みた。H27年度の調査では、これまで調査してきた鹿児島県に加え沖縄県の自生地でもサンプルを採集することに成功した。また、菌根菌相の遷移を解明するため、鹿児島県と沖縄県の各1地点にモニタリングサイトを選定し、個体にID番号を付与して、それぞれから菌根のサンプルを採集した。さらに、着生する枯死木内の菌相を解明するため、材より子実体を採集し分子同定を行ったところ、うち1種はITS領域の塩基配列がタカツルランの菌根菌と完全に一致し、菌根菌が形成した子実体を採集することに成功した。 本研究で採集した菌根より、一部の菌根菌を単離培養することに成功し、共生培養による発芽試験及び単離菌株の特性評価を行って、日本菌学会第59回大会においてポスター発表を行った。 ジェネラリストとスペシャリストの進化解明においては、対象とするオニノヤガラ属のうち、近縁種3種において菌相を比較し、種分化の過程でどのように菌相が変化したかを解明する研究を行った。その結果、アキザキヤツシロランはクヌギタケ属と特異的に共生するスペシャリストであるが、それに対して近縁種のクロヤツシロランとハルザキヤツシロランはクヌギタケ属に加えて複数の菌群と共生するよりジェネラリストな種であることを明らかにし、これらの菌相を比較して種分化の過程で菌根菌相がダイナミックに変化したことを明らかにした。これらのデータは論文としてとりまとめ、American Journal of Botany誌上で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タカツルランの菌根菌共生の全貌を明らかにするため、これまで調査してきた鹿児島県に加え、今年度は沖縄県の自生地でサンプルの採集を行い、国内の分布域を広くカバーするサンプリングを達成することができた。 菌根菌の遷移を解明するため、定点観測地点を鹿児島県と沖縄県に各一カ所ずつ選定してモニタリングを開始し、研究の基盤をほぼ整えることができた。今年度はこれらのサイトにおいて、各個体にID番号を付与し、それぞれの菌根を採集した。またホストの木材についても同時にモニタリングを行い、分解段階の遷移に伴う枯死木内の菌相変化を解明するため、各枯死木の分解段階の記録や発生する子実体の採集を行った。 ジェネラリストとスペシャリストの解明においては、オニノヤガラ属を対象とした研究内容の一部データをとりまとめ、論文として公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
対象種が共生する菌根菌相を解明するため、地理的に離れた様々な自生地で菌根の採集を行った。今後はこれらのサンプルより分子同定法を用いて、菌根菌を特定する作業を行い、菌根共生の全貌を明らかにする。 菌根菌の遷移を解明するため、今年度設定したモニタリングサイト2地点において定期的に各個体から菌根の採集を行う。また、同時にホストの木材における木材腐朽菌の遷移を解明するため、材からも子実体を採集して分子同定を行い、最終的に木材の分解段階に沿った材の中の菌相と菌根菌相の遷移を解明する。スペシャリストの対象種については、今後も自生地の探索を行う。 ジェネラリストとスペシャリストの解明においては、対象となるオニノヤガラ属について引き続きサンプルの採集と菌根菌相の特定を進める。また、発芽時に共生する菌と成熟個体で共生する菌相が異なる事例も報告されていることから、種子を採集して自生地播種試験を行い、発芽時の共生菌相についても特定を進める。 日本産オニノヤガラ属の近縁種が多く自生する台湾においてもオニノヤガラ属の菌根菌相を解明するため、台湾の国立自然科学博物館に台湾産オニノヤガラ属の菌根菌を分子同定法により特定する作業を依頼している。これらのデータを共有し、近縁種群内で菌相を比較することで種分化の過程で菌根菌相がどのように変化してきたのかを解明する。 得られた成果は、積極的に所属学会の大会等で発表を行うとともに、学術雑誌で公表する。
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Research Products
(9 results)