2015 Fiscal Year Research-status Report
植物・アリ絶対共生系における寄主転換とそれに伴う多様化に関する進化生態学的研究
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15K18606
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
上田 昇平 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30553028)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東南アジア熱帯雨林 / マレーシア / アリ植物オオバギ属 / 寄主転換 / 共生者-寄生者間の軍拡共進化 / 種間ネットワーク / 分子地理系統解析 / マイクロサテライト解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)サンプリング:マレーシア国ボルネオ島ランビル国立公園において,アリ植物オオバギ属に寄生する昆虫類の調査をおこない,ナナフシ・タマバエのDNA標本を採集した.ナナフシについてはOrthomeria属の2種(O. alexisとO. cuprinus)計84個体,タマバエについてはSchizomyiina亜族およびタマバエ科(属名未定)の計65個体を採集した. 2)塩基配列の決定と分子系統解析:DNeasy Blood & Tissue Kit を用いてナナフシとタマバエのトータルDNAを抽出した.両昆虫ともにミトコンドリアDNA COI遺伝子と核DNA 28S rDNA領域およびHiston 3遺伝子の一部をPCR法により増幅し,ダイターミネーター法により部分配列決定した.得られた塩基配列を用いてベイズ法による分子系統解析をおこない,得られた分子系統樹に昆虫類におけるCOI遺伝子の平均進化速度(1.5%/100万年)を当てはめ,ベイズ法による分岐年代推定をおこなった. 3)分子系統樹と分岐年代推定:ナナフシの分子系統樹は2系統に分岐し,それぞれの系統はO. alexisとO. cuprinusが対応した.両系統(種)の寄主植物に対する特異性は概ね高く,特定系統の植物のみを利用していた.しかし,種間で寄主範囲は異なり,O. cpurinusは近縁な2種のオオバギのみを利用する一方,O. alexisは複数の植物種を利用していた.分岐年代推定の結果,ナナフシがアリ植物オオバギ属の利用を開始した時期は350万年前であることが明らかになった.タマバエの分子系統樹は単系統であり,10系統に分岐した.それぞれの系統は特定の植物種を利用しており,寄主特異性は極めて高かった.タマバエの種名に関しては,現在,専門家が同定中である.分岐年代推定の結果,ナナフシがアリ植物オオバギの利用を開始した時期は1400万年前であることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ランビル国立公園の原生林と二次林に分布するオオバギを網羅的に探索し,ナナフシ,タマバエの採集をおこない分子系統樹を作成した.また,アリについては,次世代シークエンサーを用いたRad-Seq法によって分子系統樹を再構築する方針を立て,解析する個体の選定をおこなった.DNAサンプルの採集,遺伝子マーカーの開発,分子系統解析いずれも順調に進捗しており,当初の計画通り研究が進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において,サンプリングおよび分子系統解析に一定の成果が得られた.今後は,Rad-Seq法によってアリの頑健な分子系統樹の再構築をめざす.群集メンバーそれぞれのDNA分類を完成させた後,地図上にオオバギ株の位置,共生者・寄生者の分類をプロットし,オオバギ局所群集の種間ネットワーク構造を明らかにする. 平成25年度の研究費のほとんどはDNA解析の試薬の購入に使用される予定である.これらの試薬は,DNA抽出キット,PCRプライマー,蛍光色素付きプライマー,次世代シークエンサーの委託金,その他消耗品などである.アリのRad-Seq解析をおこなうことが決定したので,本年度は,従来のシークエンス解析だけでなく次世代シークエンサー用の費用を追加して購入する必要が出てきた.また,得られた研究成果を発表するための旅費および論文投稿料にも研究費を使用する計画である.
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Causes of Carryover |
2015年10月1日付けで代表研究者が信州大学から大阪府立大学に異動したため,研究計画に若干の遅れが生じ,計画していた次世代シークエンサ解析を来年度にまわすこととなった.昨年度は,異動により研究計画に若干の遅れが生じたが,アリ植物に寄生するナナフシとタマバエの分子系統解析が著しく進捗したため,研究計画全体への遅れはほとんど無い.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金の全てを次世代シークエンサ解析に使用する.当該年度の経費は交付申請した通りに使用する計画である.
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Research Products
(10 results)