2016 Fiscal Year Research-status Report
植物・アリ絶対共生系における寄主転換とそれに伴う多様化に関する進化生態学的研究
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15K18606
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
上田 昇平 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 助教 (30553028)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アリ植物オオバギ属 / シリアゲアリ / カイガラムシ / 寄主特異性 / 東南アジア熱帯雨林 / 分子系統解析 / 核DNA系統樹 / mtDNA系統樹 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度については,アリ植物オオバギ属に共生するシリアゲアリとカイガラムシの形態に基づく種分類,分子系統,寄主特異性の検証を主におこなった. 1)シリアゲアリの核DNA系統樹とmtDNA系統樹の比較:核DNA(9遺伝子,計5000bp)を用いて,熱帯アジアの広域に分布する18種のオオバギ属から採集したアリの分子系統樹を作成し,核DNA系統樹とmtDNA系統樹の一致性を検証した.系統レベルの一致性でみた場合,核DNAとmtDNA系統は一致しており,この結果は,核DNA系統間にmtDNAの浸透はない,すなわち交雑は起こっていないことが示された.一方,系統樹の一致性でみた場合,複数の核DNA系統を含む単系統群が多系統の関係にあるmtDNA系統によって構成されており,また,核DNA姉妹系統間のmtDNAの遺伝的分化の程度は合着シミュレーションを用いた推定値より高いことが示された.この結果は,核DNA系統群の分岐が起こる以前,共通祖先が複数のmtDNA系統を内包しており(祖先多型),そのmtDNA多型が各核DNA系統に引き継がれたことを示す.すなわち,核DNAとmtDNA系統の不一致の要因は種間交雑の影響ではなく不完全な系統ソーティングであったことになる. 2)カイガラムシ類の分子系統,種分類,寄主植物・寄主アリ特異性:既存のカイガラムシのmtDNA系統樹は形態に基づく種分類と部分的に一致しておらず,このmtDNA系統樹に基づくと,カイガラムシの寄主植物・寄主アリへの特異性は見いだせなかった.一方,カイガラムシの核DNA系統樹を作成したところ,形態に基づく種分類と完全に一致しており,核DNA系統樹に基づくと,カイガラムシの寄主植物と寄主アリに対する特異性は高いことが明らかになった.植物ーアリーカイガラムシの3者は,相互に高度に特殊化した相利共生を結ぶと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シリアゲアリとカイガラムシの形態に基づく種分類,分子系統,寄主特異性の検証については十分な進展があった.しかし,次世代シークエンサーを用いたアリ類の分子系統解析の手法について方針転換を行を行ったため,研究計画に若干の遅れが出た.昨年度まではDNA解析を外部に委託する計画であったが,所属大学に次世代シークエンサーが導入されたため,学内で解析をすすめることに決定した.
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Strategy for Future Research Activity |
次世代シークエンサーを用いてアリの頑健な分子系統樹の再構築をめざす.マレーシア国サラワク州ランビル国立公園にてDNA標本の追加採集をおこなう.本年度までの研究成果である,アリ植物の群集メンバー(シリアゲアリ,ナナフシ,カメムシ,タマバエ)の分子系統解析について成果をまとめ,オオバギ局所群集の種間ネットワーク構造を明らかにし,寄主転換が起こる要因を探る.
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Causes of Carryover |
次世代シークエンサーを用いたアリ類の分子系統解析の手法について方針転換を行を行った.昨年度まではDNA解析を外部に委託する計画であったが,所属大学に次世代シークエンサーが導入されたため,学内で解析をすすめることに決定した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金を使用して,次世代シークエンサー用の実験試薬を購入する.
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