2015 Fiscal Year Research-status Report
現代人の高地適応に関連する旧人類ハプロタイプの進化の解明
Project/Area Number |
15K18621
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
安河内 彦輝 三重大学, 生命科学研究支援センター, 助教 (60624525)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高地適応 / EPAS1 / EGLN1 / 旧人類 / 関連解析 / 低圧低酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず本研究の目的は,分子進化学・集団遺伝学的手法により旧人類との交雑で現生人類集団に伝播したハプロタイプの進化過程を明らかにすることである.初年度は,チベット集団の高地適応に寄与したとされるEPAS1遺伝子のデニソワ人(旧人)由来一塩基多型(SNP)モチーフを現生人類集団で探索することであった.対象は,デニソワ人ゲノムと最も共有率が高いとされる(4-6%)メラネシア集団である.まず,Gidra族32個体についてTaqman法によるSNP genotyping assayを実施したところ,すべての個体がデニソワ人SNPモチーフ(AGGAA)とは異なるモチーフ(GAAGG)を有していることがわかった.なお,その他のメラネシア集団(Kusaghe 40個体,Munda 40個体)の2つのSNPサイトを調べたところ,すべてギデラ族と同じSNPであった.これらのことから,少なくとも今回解析した集団にはデニソワ人由来SNPモチーフは伝播していないことが示唆された. したがって,上記の集団ではデニソワ人由来SNPが見つからない可能性が高いことから,その他の遺伝子のSNPを調査する方針に切り替えた.EPAS1遺伝子のほかにEGLN1遺伝子も高地適応に関連することが報告されていることから,この遺伝子を解析対象とした.また,九州大学の研究グループが,日本人約50検体の低圧(低酸素)暴露実験の生理データおよびゲノムDNAを保有しており,これらの使用が認められたことから,表現型と遺伝多型との関連解析を行なうこととした.解析対象は,先行研究で高地適応に関連することが示唆されたSNPを選定し,それらをスクリーニングしたのち,最終的に7 SNPsを調査する予定である.まだ予備的解析の段階であるが,補正分換気量や脈圧などの生理値について,高地適応型SNPをもつ検体が有意に高い傾向を示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,旧人類由来の高地適応関連するEPAS1遺伝子のSNPについて,現生人類で最も多くのデニソワ人のゲノム情報をもつメラネシア集団で調査を行なった.当初の予想に反して,解析集団ではデニソワ由来SNPが検出されないだけでなく,それらの集団では多型がなく,それ以上の解析は困難であった.しかし,解析対象遺伝子と集団を変え,さらには生理データを付加した解析に迅速に切り替えることによって,当初の計画とは方針が異なるものの,結果的にはより質の高い解析が行なえている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては,より精度を上げるためにサンプル数を増やすことである.まだサンプル数が50検体と少ないため,関連解析を行なう上ではサンプルの確保が課題となる.九州大学と長崎大学の研究グループが,今後生理データを測定したゲノムDNAを採取できる可能性が高く,それらの使用もほぼ認められていることから,今後はより精度の高い解析ができると考える.そして,予算の問題もあるが,少数個体の解析で十分な結果が期待できると判断した場合,ゲノム網羅的SNP解析を行なうことも検討する. また,解析対象の7 SNPsのうち,デニソワ人と同じSNPについては,分子進化学的解析も検討して,より研究の幅を広げる.
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Causes of Carryover |
前年度2月に所属を移すことになったが,異動先の所属機関の倫理申請の基準を満たすために,サンプル提供先の九州大学の倫理申請書についても変更する必要が生じてきた.しかし,年度の変わり目ということもあり,九州大学の担当者が別の機関に異動することに伴い,今年度から別の研究者が担当するということで,倫理申請を前年度は見送ることとなってしまった.したがって,前年度末は新しい所属先で予定していた実験を行なうことができなくなってしまったため, 予算を今年度に繰り越すことになった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画は,前年度予定していたSNP typing assay等の実験試薬および消耗品を購入する費用に充てる.具体的には,Applied BiosystemのTaqMan SNP Genotyping Assayの試薬や,ピペットマンのチップやチューブ等,PCRで使用する試薬キット,直接塩基配列決定法(委託予定)の費用などを予定している.
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