2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K18625
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 和浩 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (70513688)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イネ / 早朝開花性 / 高温障害回避 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネは、世界人口の約半数が主食としている主要な作物である。近年、生産現場では、気候変動の影響により、収量および品質の低下が起こっている。熱帯地域では、さらなる高温ストレスによって不稔籾が発生し、収量の低下が報告されている。高温による不稔籾は、開花時に32-36℃以上の高温にさらされることで、増加する。現在、高温不稔を軽減する品種育成や栽培技術開発は、熱帯地域での需要が高い。また、IPCC(2013)の報告によると、今後ほとんどの陸域において、栽培時期に高温がより頻繁になり、長く続く可能性が高いとされている。高温不稔が起こる地域は、熱帯地域だけでなく、増々広範囲になっていく懸念がある。こうした高温不稔に対し、申請者の研究グループでは、イネの開花時刻を早め、気温が涼しい早朝に開花させることで、日中の高温を避ける、というストレス回避型の戦略に着目している。 申請者のグループでは、野生イネ由来の早朝開花性遺伝子座を、第3、8染色体に(qEMF3, qEMF8)検出している。さらに、Nanjing 11を遺伝背景とした早朝開花性の準同質遺伝子系統(Nanjing 11+qEMF3)の作出に成功している。Nanjing 11+qEMF3はNanjing 11に比較し、1.5~2時間ほど、開花時間が早まっており、高温不稔を軽減することも確認されている。本研究課題では、qEMF3の原因遺伝子の特定を目指して、高精度連鎖解析、塩基配列解読と遺伝子予測、遺伝子発現解析に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Nanjing 11とNanjing 11+qEMF3の交配F2集団を用いて、qEMF3の座上領域を推定するために、組み換え個体を選抜した。約5000個体のF2集団からDNAを抽出し、第3染色体短腕のqEMF3を挟み込むマーカーで遺伝子型を決定し、選抜マーカー間で組み換えが起こっている約120個体を選抜した。選抜した個体は、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構内の水田圃場で栽培した。選抜個体の開花パターンは、朝7時から30分おきに調査し、開花した穎花にマーキングしていった。選抜個体で開花時刻が分離することを確認した。 また、現時点でのqEMF3領域内に、Nanjing 11とNanjing 11+qEMF3で多型を示すDNAマーカーを、さらに高密度に作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
高精度連鎖解析によるゲノム領域の特定:F3世代の開花パターンを調査し、qEMF3の高密度連鎖地図を完成させ、ゲノム領域を特定する。 qEMF3ゲノム領域の塩基配列解読と遺伝子予測:特定されたゲノム領域内の塩基配列を解読し、遺伝子を予測する。また、Nanjing 11とNanjing 11+qEMF3間の塩基多型を検出する。イネゲノムアノテーションデータベースRAP-DB (rapdb.dna.affrc.go.jp/)やRice Genome Automated Annotation System (http://ricegaas.dna.affrc.go.jp/)等のプログラムを用いて、qEMF3ゲノム領域内の遺伝子を予測する。加えて、Nanjing 11とNanjing 11+qEMF3間の塩基多型を基に、早朝開花性の原因となる候補遺伝子を選定する。塩基多型により、アミノ酸配列に挿入・欠失などの変化があった遺伝子が候補として上げられる。加えて、プロモーター領域に、挿入や欠失等の大きな塩基多型が存在している遺伝子も候補として考えられる。 qEMF3ゲノム領域内の遺伝子発現解析:候補領域内に予測された遺伝子について、定量的な発現解析を行い、Nanjing 11とNanjing 11+qEMF3での発現量が異なる遺伝子を特定する。イネの開花には、光刺激が最も重要なファクターであり、光照射によって誘導または抑制される遺伝子が、開花に関わっている可能性が高い。そこで、発現解析には光照射後の経時変化を追った個体を用いる。照射開始時間を0時間とし、1時間毎にサンプリングする。サンプリングは、両系統の開花終了時刻まで続ける。また、サンプリング部位は、光を感受する部位と考えられる、穎花と止葉を用いる。サンプリングする穎花は、サンプリング当日に開花が予想される穎花を選抜しておく。イネは、1つの穂の中での開花順序は規則性があり、前日の開花の様子から、サンプリング当日に開花する穎花を予測することが可能である。
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