2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K18634
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 佑 京都大学, 農学研究科, 助教 (50634474)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ダイズ / 光合成 / Rubisco / 遺伝的差異 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,高い個葉光合成能力を有すると目される系統PI603911Cを引き続き圃場条件で栽培し,多収品種を含む他のダイズ品種群との比較において,その特色を明らかにすることを目的とした. ダイズ11品種・系統を京都大学大学院農学部附属京都農場において慣行栽培し,携帯型光合成蒸散測定装置LI-6400XTを用いて,光合成能の評価を行った.その結果,PI603911Cは11品種・系統の中でも最も光合成能が高い部類に属し,これまでの測定を裏付けるデータとなった.他には,半野生といわれる在来系統のPeking,および米国の多収品種UA-4910が,PI603911Cと同等の高い光合成能を示した.さらに葉の水分生理,蒸散速度,および葉身Rubisco含量の調査を行ったところ,Pekingは主に優れた水分生理特性と蒸散速度,PI603911Cは主に高い葉身Rubisco含量,そしてUA-4910はその両者の特性を併せ持つことで高い光合成能を実現していることが示された.このように,ダイズが高い光合成能を実現するための生理生態的特性は必ずしも単一ではなく,これらの特性を組み合わせることでさらなる高光合成能を実現できるのではないかと期待された. なお,全てのダイズ品種・系統において,子身肥大期以降に葉身Rubisco含量が著しく上昇するにもかかわらず,光合成能には目立った上昇傾向はみられなかった.この理由のひとつとして,Rubisco活性化率が子身肥大期以降に大きく低下することが明らかとなった.この事実は,現在のダイズ品種ではRubiscoが過剰気味であることを示唆しており,今後のダイズ育種においてRubisco含量を低下させることでさらに効率的な窒素分配が可能となり,将来的な高CO2環境にも適応できるのではないかと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初期待していた通り,PI603911Cは極めて高い個葉光合成能を有する系統であることが明らかとなった.その生理学的背景として,葉身Rubisco含量が他の品種と比較して高く推移することを明らかとした.しかし,本系統が高CO2濃度でも何故優れた光合成能を示すのかについては,現在のところ明らかにできておらず,今後の検討課題として残されている. 一方で,本研究の遂行過程において,PI603911Cと同等の光合成能を示す系統が複数見出された.さらに高い光合成能をもたらす生理的要因は系統ごとに異なっていることが明らかとなった.この事実は,ダイズの高光合成能をもたらすメカニズムが複数存在することを示唆する重要な知見である・ さらに,ダイズでは子実肥大期以降に葉身Rubisco含量が急激に増大することを発見した.一般にRubiscoは光合成の最も重要な酵素反応を司ることから,その含量の増大は光合成能に直結すると考えられる.しかしダイズにおいては,生育後期にRubiscoが過剰となり活性が低下するため,光合成能におけるアドバンテージとなっていないことが明らかとなった.今後の高CO2環境を考えると,Rubisco含量は相対的により過剰となりやすくなることから,あえてRubisco含量を低減するようなダイズ育種戦略の必要性が示唆された. 以上のように,本研究は当初予期していなかった重要な知見を得るなど,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
PI603911Cの光合成特性は非常に特徴的なものであり,より詳細な解析が必要である.特に,今後は葉身の微細形態および葉内のCO2輸送効率を示す葉肉コンダクタンスを含め解析を行い,PI603911Cの光合成特性の全貌を明らかにすることを目指す. また現在,PI603911Cを片親とした交雑から得られた分離集団の育成を行っている.将来的に本分離集団が完成すれば,PI603911Cの高光合成能をもたらす遺伝的要因の解析を行うことも可能であると期待される. 以上の研究を推進しながら,ダイズの光合成能を決定するメカニズムを包括的に理解し,最終的にはダイズの光合成育種に有用な知見を与えることを目指す.
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Research Products
(1 results)