2015 Fiscal Year Research-status Report
アミノ酸による細胞内カルシウム上昇を介した情報伝達経路の解析
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15K18680
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高原 照直 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90708059)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アミノ酸 / mTORC1 / カルシウム / 細胞内情報伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞のアミノ酸感知機構へのCa2+の役割とその細胞応答を明らかにすることを目指している。本年度は以下の点について実施した。 1) アミノ酸依存的Ca2+流入に関わる因子の探索 細胞にアミノ酸混合液を投与すると細胞外からのCa2+流入が促進される現象を見出している。種々のCa2+チャネル阻害剤を用いて、Ca2+流入が阻害されるかを検討した結果、amilorideによりCa2+流入及びmTORC1活性化の阻害がみられた。 2) Ca2+のmTORC1経路作用点の解析 mTORC1活性化機構としてアミノ酸依存的なリソソーム局在化が初期ステップとして重要であるが、Ca2+の作用点がmTORC1のリソソーム局在化以降のステップであると考えられる結果が得られた。またmTORC1活性化因子Rhebを過剰発現系した場合では、Ca2+キレート剤によるmTORC1活性抑制効果はみられなくなった。これらのことから、Ca2+がmTORC1-Rhebの相互作用を制御している可能性が示唆された。 3) アミノ酸によるCa2+上昇の生理的意義の解析 アミノ酸によるCa2+上昇による細胞内応答の1つとして、細胞内Ca2+結合タンパク質ALG-2とその相互作用候補因子の結合の意義について解析した。当初予定していた相互作用候補因子hVps15はALG-2との結合能が非常に弱く解析が困難であると判断した。別の因子としてALG-2との結合が示されたMISSLに着目した。アミノ酸混合液の投与によるCa2+上昇の結果、MISSLはALG-2依存的に小胞体出芽部位へ集積することが判明し、MISSLはALG-2と共同して細胞内の分泌過程を制御することが示唆された。このことはアミノ酸による細胞内Ca2+上昇が細胞内の分泌過程を制御して細胞外分泌に影響を及ぼす新たな可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していたCa2+流入に関わる因子の同定に向けて複数のCa2+チャネル阻害剤を使用した結果、amiloride感受性のCa2+チャネルが当該の因子である可能性が得られた。さらにamirolideによってアミノ酸依存的なmTORC1活性化も阻害されることや、この阻害効果が細胞外のCa2+を除去した条件では起こらなくなることからも、amiloride感受性のCa2+チャネルが深く関わることが判明したことは大きな親展であった。 Ca2+のmTORC1経路への作用点についてCa2+キレート剤によりアミノ酸依存的なCa2+上昇を抑制した条件でも、mTORC1のリソソーム局在化に影響はないことが分かった。さらに1. 恒常的活性化型Rag GTPase, 2.恒常的活性化型Rheb GTPaseにより、それぞれ人工的にmTORC1活性化状態を作った場合、1の場合にはBAPTA-AMによるmTORC1活性の低下がみられたが、2の場合にはみられなかった。これらのことはCa2+がmTORC1活性化ステップの内、mTORC1-Rhebの結合を制御する可能性を示唆しており、今後解析を進める上で重要な知見が得られた。 アミノ酸によるCa2+上昇がCa2+結合タンパク質ALG-2を介した制御に関わる可能性を調べるために、当初hVps15との結合に着目したが、細胞内でのこれらの結合は非常に弱く、詳細な解析を断念した。代わりにALG-2との結合がみられた新規相互作用因子MISSLに着目して解析を進めた。RNA干渉法によってMISSLを発現抑制した結果、MISSLがERESやゴルジ体の局在に影響を及ぼすことが示唆された。さらに、分泌型アルカリフォスファターゼをモデルタンパク質として分泌過程への影響を評価したところ、MISSLとALG-2とが共同して分泌経路を正に制御していることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
Ca2+チャネルの分子的実体の特定には至っていないため、今後RNA干渉法や遺伝子破壊を利用した方法により具体的な分子の特定を急ぐ。amilorideはT型Ca2+チャネルやTRPチャネル、上皮性Na+チャネルなど複数のチャネルを阻害することが知られている。このうちT型Ca2+チャネルや上皮性Na2+チャネルの特異的阻害剤ではCa2+の上昇は阻害されなかったため、TRPチャネルの関与が考えられるが、このTRPチャネルに対する特異的阻害剤はないため、RNA干渉法による発現抑制やCRISPR/Cas9による遺伝子破壊を行うことで、このTRPチャネルの関与の検証をすすめる。 Ca2+のmTORC1経路への作用点については、前年度に行った解析結果を踏まえて、mTORC1-Rhebの結合に焦点を当て解析をすすめる。具体的にはRheb-mTORC1の共局在への影響を調べる。また、生化学的な解析としてmTORC1-Rhebの共免疫沈降実験により、結合の違いについても解析をすすめる。さらに、Ca2+キレート剤の処理の有無によりmTORC1の触媒活性に影響を与える可能性について、in vitroキナーゼ活性評価系によっても検証を進める予定である。以上の解析結果を併せて、mTORC1活性化機構におけるCa2+流入の意義についての分子レベルでの詳細な理解につなげる予定である。 MISSLとALG-2とが共同して輸送過程を制御する可能性を明らかにするために、今後具体的な分子機構を明らかにする必要がある。質量分析計を用いた解析をから、MISSLの結合候補因子として得られた分子に焦点を当て、MISSLの機能解析とその作用機序について解析を進める。またアミノ酸混合液の投与により、SEAPの分泌割合がどの程度変化するかを解析し、MISSLを介したCa2+による分泌過程への影響についても解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
ほぼ予定通りであったが、当初計画していたRNA干渉法によるCa2+チャネルの探索の代わりに、阻害剤を用いた探索を重視したため、RNA干渉法による探索費用分として一部を次年度に先送りした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Ca2+チャネルの同定に向けて、RNA干渉法あるいはCRISPR/Cas9法により、培養細胞において発現抑制や遺伝子破壊を行う。また、mTORC1-Rhebの結合実験として生化学的な解析と、細胞内局在の解析とを並列して進める。また、MISSLの新規結合因子に関してもRNA干渉法を用いた発現抑制を試み、分子機構の解析を行う。これらの計画を実行するために、細胞培養用試薬、ガラス器具、プラスチック器具および共通設備である共焦点レーザー顕微鏡の使用料、生化学用試薬、微生物培養用試薬、分子生物学用試薬に研究費を使用する。
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Research Products
(3 results)