2015 Fiscal Year Research-status Report
千島系・樺太系グイマツの系統的ルーツの解明と育種利用の評価
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15K18715
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Research Institution | Hokkaido Research Organization |
Principal Investigator |
石塚 航 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部林業試験場, 研究職員 (80739508)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 葉緑体 / 分画法 / 塩基配列解読 / グイマツ / 系統 / カラマツ類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではまず、対象種であるグイマツから十分量の葉緑体DNAを抽出・精製する手法の確立を試みた。なお、針葉樹を対象とした最新の葉緑体分画法が研究開始前年度に報告されたため(Vieira et al. 2014)、その手法を応用し、パーコール濃度勾配液を用いた葉緑体分画実験の最適化を図った。同時に、DNA抽出段階における試薬処理時間等の調整を行った。最終的に、生重20gのグイマツ針葉から200mgの葉緑体を得、4μgのインタクト葉緑体DNAを安定して抽出する手法を確立した。 続いて、北海道のグイマツ精英樹の過去の台帳(資料)を整備するとともに、道内の植栽木の由来情報を広く収集し、千島と樺太のそれぞれに由来することが確かな代表2家系(クローン)を選定した。それと同時に、現在の推定系統(千島系統・樺太系統)上の精英樹数・形態形質情報についても収集した。精英樹は、推定千島系統19%、推定樺太系統53%、不明28%という構成割合で、樺太系統が量的に多かったものの、家系内訳からは、盛んに育種利用の進む家系は推定千島系統に属していたことを明らかにした。 選定した代表2家系について、本研究で確立した手法を用いて葉緑体DNAを抽出した。次世代シーケンサーillumina Hiseqを用い、バーコード配列を付与したうえでバルクしたDNA試料の塩基配列解読を実施し、2検体それぞれで1,770万リード(17.7億塩基)、1,800万リード(18億塩基)の塩基配列データを得ることができた。これらは、データのトリミング後でも、葉緑体ゲノムサイズ×1000の配列数となる見込みで、十分に葉緑体ゲノム構築に耐えうると考えられた。同時に、葉緑体分画実験の過程で除去しきれなかった核由来のDNA配列を除去するパイプラインも構築し、グイマツ葉緑体ゲノム配列を決定するためのデータ整備をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標としていた、グイマツにおけるインタクト葉緑体DNAの効率的な抽出方法の確立は達成できた。ただし、研究開始の直前に海外の研究者によって実験手法が報告されたため、新規の実験手法の確立は目指さず、報告されたプロトコルを応用してグイマツでの最適化を検討する方針とした。 本研究者の所属する研究機関に所蔵されている資料を収集し、全道のグイマツ林から選抜された精英樹、全106家系の原木情報、ならびに各家系のクローンの形態形質情報の整理を行った。千島と樺太のそれぞれに由来することが確かな代表2家系の選定とともに、現存クローン状況も加味しながら、今後の解析に使用する家系の選定(全20家系)は今年度終了したため、これらを用いて、フェノロジー調査等を進める。 また、代表2家系の葉緑体DNAの配列解読依頼が予定通りに済み、現在、葉緑体ゲノムの構築を行っている。これは次年度上半期には終了する予定で、2系統の来歴等を推定するためのデモグラフィー(集団動態)解析を行うとともに、これから実施していく多数サンプルの配列解析において、解析の際のリファレンス配列として使用する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
・平成28年度 初年度、計画通りに実験手法が確立できたため、この手法を用いて、既に選定を済ませた20家系からのインタクト葉緑体DNA抽出を試みる。抽出したDNAは、ライブラリ化とバーコード配列付与を行い、次世代シーケンサーillumina Hiseqを用いた配列解析を委託する。解読された塩基データから、葉緑体全ゲノム網羅的な個体ベースのSNPs(一塩基多型)探索を行い、系統区分を明らかにする。同時に、これら20家系については、蓄積されている調査資料の整理や表現型形質測定を行う。これによって、遺伝-形質データの比較を行えるようにする。 既に配列解析の終了した代表2系統に関しては、それぞれで葉緑体ゲノム配列を決定させ、コアレセント理論に基づいた統計学的なデモグラフィー(集団動態)解析によって、2系統の来歴の推定を行う。 ・平成29年度 系統的ルーツを全サンプルで類推したうえで、個体ベースの変異解析や遺伝-形質データの比較をさらに発展させ、解析結果をまとめる。これらのデータを包括的に整理し、育種利用に系統的な偏りがどれだけあるか評価し、今後の育種(家系選抜)への応用の仕方について考える。
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Causes of Carryover |
今年度、購入予定として計上していた解析ソフトウェア(ライセンス)は、交付予算額の削減に伴い、次年度に購入する予定とした。そのため、今年度は、先んじて次年度分の分子実験用品(消耗品と試薬類)を購入し、残額については次年度使用予定として繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定としている解析ソフトウェア(ライセンス)購入額の一部に充てる。
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