2016 Fiscal Year Research-status Report
千島系・樺太系グイマツの系統的ルーツの解明と育種利用の評価
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15K18715
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Research Institution | Hokkaido Research Organization |
Principal Investigator |
石塚 航 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部林業試験場, 研究職員 (80739508)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 葉緑体ゲノム / グイマツ / 全ゲノム比較 / 系統地理 / フェノロジー / カラマツ類 |
Outline of Annual Research Achievements |
由来地が異なることが確かなグイマツ代表2家系について、昨年度実施した葉緑体DNAの大規模塩基配列解析データを解析し、グイマツの完全な葉緑体ゲノムを構築させた。構築したゲノムは、アノテーションを付与した上でデータベース(DDBJ)へと登録した。2家系間での遺伝変異を網羅的に調べたところ、SNV(一塩基多型)やSSR(繰り返し配列)のほか、45塩基の重複によって生じるIn/Delを含んだ、計15の種内変異が明らかになり、今後の系統解析に有効であると推定された。 グイマツ精英樹全106家系のうち、昨年度に整備した台帳情報をもとにして、現在の推定系統(千島系統・樺太系統)と表現形質との関連を調査した。とくにフェノロジー形質に着目し、春期の開葉時期と秋期の黄葉時期の遺伝変異を定量化した。グイマツ精英樹を網羅するように、のべ22家系を調査対象とした。推定千島系統とみられる家系は開葉と黄葉がともに遅い傾向にあることを明らかにし、これまでの定説と矛盾しなかった。 昨年度確立させた、針葉からの効率的なインタクト葉緑体分画、DNA抽出手法を用いて、グイマツ18家系の葉緑体DNAを抽出した。これらを供試材料として次世代シーケンサーillumina Miseqを用いた大規模塩基配列解析を実施した。平均416Mbの配列長が得られ、本研究ですでに構築が済んでいるグイマツ葉緑体ゲノムをリファレンスとした、家系毎の葉緑体ゲノムの決定を行うことができた。今年度までの解析からは、家系間のゲノム比較により、上記の15の種内変異に加えて新たに22の変異を見つけ、遺伝的な系統の推定が有効にできることがわかった。解析結果より、これまでの推定樺太系統の中に、推定千島系統とみられる家系の一部が内包されることが示唆され、今後、形質、遺伝データの双方より詳細に解析していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標としていた、グイマツ葉緑体の全ゲノム解読は年度内に終了した。本種の葉緑体ゲノム情報はまだ報告された例がないため、論文にとりまとめることとした。その際、遺伝子の推定機能の付与(アノテーション)と精査、ならびに、近縁種との構造比較を新たに行う必要が生じ、当初の目標以上の実施内容となった。そのため、論文受理までは至っていないため、記載の進捗状況とした。 また同様に、当初の目標通り、複数家系から、全ゲノムレベルでの葉緑体DNA変異探索を行うことができ、網羅的な変異情報収集を実施した。こちらについては、昨年度確立させた、針葉からの効率的なインタクト葉緑体分画、DNA抽出手法を適用させることによって、また、昨年度同様に、次世代シーケンサーを用いた大規模網羅的な塩基配列解読によって、効率的に実施することができた。その結果、合計でグイマツ18家系の変異情報を収集することができた。これによって、本研究対象種2系統の来歴等を推定するためのデモグラフィー(集団動態)解析を実施するデータが揃い、現在、解析を進めている。次年度の前半に解析が終了予定である。 また並行して、予定していた形態形質情報の整理・収集を実施した。とくにフェノロジー形質に着目し、春期の開葉時期と秋期の黄葉時期の遺伝変異の定量化を試み、必要な材料より広くデータを収集することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度収集したフェノロジー形質について、より詳細で強固な定量データとするため、再度の調査を行う。また、昨年度までに決定させたグイマツ全20家系の葉緑体ゲノムの配列情報について、その検証を行った後に、データベース(DDBJ)への登録を行う。続いて全ゲノム比較による遺伝変異の精査を行う。また、得られた変異情報を用いて詳細なデモグラフィー解析を行い、そのとりまとめを行い、系統的ルーツを家系ベースで類推する。 また、遺伝-形質データの比較をさらに発展させ、包括的なデータ整理を行った上で、育種利用に系統的な偏りがどれだけあるか評価し、今後の育種(家系選抜)への応用の仕方について考える。 これらとりまとめた結果については、論文発表・学会発表を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度に解析を委託したNGS解析費が当初の予定額よりも下回った。それに伴って若干の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の解析とりまとめを遂行するにあたり、論文出版・学会報告に関連した費用等に充てる。
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Research Products
(3 results)