2015 Fiscal Year Research-status Report
揮発特性および酸化特性を利用した国産針葉樹葉油の高付加価値化
Project/Area Number |
15K18725
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
楠本 倫久 国立研究開発法人 森林総合研究所, バイオマス化学研究領域, 特別研究員(PD) (80537168)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 林地残材 / 精油 / 加熱 / 紫外線照射 / 高付加価値化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、林地残材から大量に得られる国産針葉樹葉油に高い利用価値を見出し、未利用森林資源の新規有効利用法を検討することである。主な内容は、1)揮発特性と酸化特性を利用した葉油の高活性化、2)葉油の抗菌・防虫剤としての有用性および活性原因物質の解明の2点であり、初年度は上記1)に関わる葉油の加熱処理および紫外線照射処理による成分組成の定性・定量的な変化と、2)に関わる加熱処理葉油の抗菌性について検討した。 スギ、クロマツ、ヒバ葉油を温和な加熱処理(50℃)に供した結果、モノテルペン炭化水素類を多く含むクロマツ葉油では酸化重合等による構成成分の消失が進行したものの、スギおよびヒバ葉油では含酸素モノテルペン類や揮発性の低いその他成分を主体とした組成へと徐々にシフトさせることに成功した。様々な加熱処理葉油を用いて3種の木材腐朽菌に対する菌糸成長阻害活性を検討した結果、各葉油には最も高い抗菌性を示す状態が存在し、3種の葉油に共通した結果として、モノテルペン炭化水素の割合が減少した状態の葉油に高い活性が認められた。また、スギ葉油の活性成分はエレモールであることが示された。 同3種類の葉油に対して、紫外線照射(UV-A)処理を行った結果、p-メンタジエン構造を有するモノテルペン炭化水素類が選択的かつ顕著に減少した。同構造の標品数種に対して処理を行った結果、単一の酸化物へと変化するものや多様な成分へと変化するものなど、二重結合の位置の違いによって反応生成物に明確な違いが確認された。この結果を踏まえ、同構造を有するβ-フェランドレンを多く含むトドマツに着目し、樹体の様々な部位についてこの含有量を調べた結果、新梢と枝樹皮に同成分が高い割合で含まれることを明らかにした。よって、これらの部位から選択的に採集した精油に対し紫外線照射を行うことで、特徴的な酸化物を多く含む状態へと成分組成を変化できる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、主に熱、紫外線、酸素等の自然環境中の要因を用いて葉油の組成を変化させ、多量に蓄積されている未利用の林地残材に高付加価値を見出すことを目的としている。初年度は、本研究の中心となる1)揮発特性と酸化特性を利用した葉油の高活性化に関わる内容について、①揮発特性を利用した葉油の加熱処理、②酸化特性を利用した葉油の紫外線照射処理、③処理葉油の生物活性の評価の3点を、主にスギ、クロマツ、ヒバの針葉から得られた葉油を用いて検討した。 ①および③では、温和な加熱処理による成分組成の変化について、詳細な定性・定量分析と木材腐朽菌に対する抗菌活性の評価を行った。その結果、温和な加熱処理によって揮発性を促進させ、構成成分を劣化させることなく葉油自体の抗菌性を高めることに成功した。また、各葉油において高い活性を示す状態の成分組成が明らかとなり、高い抗菌活性を示したスギ葉油中の活性成分を特定した。相乗効果等の影響に関しては更なる検討が必要だが、これらの知見は今後の葉油利用の可能性を広げる有益なものである。 ②では、再現性のある紫外線照射方法の確立ならびに影響を受け易い化合物群の探索を行った。その結果、p-メンタジエン骨格を有する数種類のモノテルペン類が短期間で酸化され、紫外線の影響を顕著に受けることを明らかにした。これらの結果は、紫外線照射処理を効果的に行う上で非常に有益な知見である。また、同骨格の標品に対する紫外線照射処理の結果から、類縁体毎に異なる酸化生成物を確認することができ、葉油の成分組成を変化させる上で基礎となる知見を得ることができた。これらは、想定していた以上の成果であり、今後詳細な定量・定性解析を継続し反応機序を明らかにすることで、葉油の高付加価値化につながる成果が得られるものと考える。 これらの結果を総括し、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、葉油の揮発特性と酸化特性という2点に着目し、環境中の酸化要因を用いた方法により、人為的に葉油の成分組成を変化させる方法について検討した。揮発特性を促進する為に行った温和な加熱処理では、加熱による各種構成成分の残存性や熱による安定性が明らかとなり、揮発特性に基づき葉油を高活性化させる為の有益な知見を得た。酸化特性を促進する為に行った紫外線照射処理では、紫外線による各種構成成分の反応性が明らかとなり、p-メンタジエン骨格の化合物を含む葉油の新たな利用可能性が示唆された。 これらの結果から、次年度では、まずp-メンタジエン骨格のβ-フェランドレンを多く含むトドマツ葉油を対象に紫外線照射処理を行い、酸化生成物の詳細な定量・定性分析と反応機序について検討する。予備実験から、トドマツの新梢および枝樹皮に同成分が多く認められている。よって、モノテルペン炭化水素類を選択的に抽出できる減圧マイクロ波水蒸気蒸留法を用いてこれらの部位を抽出し、高濃度のβ-フェランドレンを含む精油に対して紫外線照射処理を行う。続いて、処理した葉油の有用性を評価する為、木質分解者(木材腐朽菌、シロアリ)、カビ、ハダニ類等の作物害虫、カメムシ等の森林害虫等に対する活性試験を行い、処理時間の異なる葉油を用いて活性の遷移を明らかにする。同時に、シクロデキストリン等による包括方法を検討し、効果の持続性と成分の安定性について実用化に向けた基礎的な知見を得る。 処理葉油の新規利用法として、北欧米で問題となっているマツノネクチタケおよびマツアナアキゾウムシに対する防除剤としての利用が挙げられる。国産針葉樹には、北欧米の針葉樹には含まれない特殊なテルペン類を含む樹種が多数存在することから、スウェーデン王立工科大学の研究者と協力して、国産針葉樹より得られた葉油(処理後も含む)を用いて当該生物に対する活性試験を行う。
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Causes of Carryover |
当該助成金は、主にシロアリ試験に用いるために購入を検討していたピンセットの代金である。初年度は、木材腐朽菌に対する抗菌活性を中心に検討したため、専用のピンセットを購入する必要が無く、購入を次年度に見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該助成金を用いて、シロアリ試験用のピンセットを購入する予定である。
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Research Products
(3 results)