2015 Fiscal Year Research-status Report
エゾアワビの繁殖の個体差と個体間相互作用が個体群動態に与える影響
Project/Area Number |
15K18734
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Research Institution | Japan Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
松本 有記雄 国立研究開発法人水産総合研究センター, 東北区水産研究所沿岸漁業資源研究センター, 研究員 (60700408)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エゾアワビ / 加速度ロガー / 産卵行動 / 個体ベースモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の3つの研究に取り組んだ。 (1)エゾアワビの産卵と時化の関係を明らかにするために、約4日間連続記録できる加速度ロガーを作成した。そして、そのロガーで得られた加速度データから産卵行動を判別できるかを室内実験で検討した。結果、雌が産卵する際に殻を上下させた際の振動が加速度データとして記録できることが再確認できた。さらに、産卵時に得られる加速度変化の周期性と振幅の特徴から、自動的に産卵波形を抽出する手法を確立した。次に、作成したロガーを装着したエゾアワビを野外に放流して計5個体の行動データを取得した。そのうち2個体のロガーには、時化の接近と連動して産卵したこと示す加速度データが記録されていた。この2個体の生殖腺は収縮しており、得られた波形が産卵行動によるものであることを支持している。これらの結果から、本種の繁殖において時化がトリガーの1つとなっている可能性が示された。28年度以降は、ロガーを装着した個体を水深3-5mと水深10-15mにそれぞれ放流して、生息水深と時化の発生がアワビの繁殖タイミングに与える影響を明らかにする予定である。
(2)過去に報告されている特定の雄に受精が偏る現象が、卵による精子の選り好みによるものかを検討するために、受精実験のデザインを検討した。実験において、受精率が精子活性の違いによって生じる可能性を排除するために、まず精子が泳ぐ時間と正常な受精能力が失われるまでの時間を調べた。結果、精子は放精してから数分で泳がなくなるが受精能力は約3時間有していることが分かった。
(3)上記2つの実験項目と並行して、時化の発生状況と繁殖期間中の産卵数の関係を推定するための個体ベースモデルの作成を行った。モデルでは、時化の発生回数とタイミング、水深帯別の生息個体数を任意の値に調整できるようになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
バイオロギング研究では、ロガーの記録時間に制限があったり、長時間記録できる場合でも高価であるため、装着できる個体数に限りがある点がネックとなることが多い。本研究では、4日間連続で記録できる安価な加速度ロガーを自作することで、この問題点を解消できた。また、0.1秒おきに約4日間連続記録された膨大なデータから目的のデータを抽出するには非常に労力を要するが、本研究では自動的に産卵した箇所を抽出する手法を開発しており、効率的に研究を進める基盤ができた。また、野外での産卵行動の記録にも成功しており、28年度以降に本種の産卵生態の全容解明が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は、まず時化の影響を受けやすい浅所(水深3-5m)と影響を受けにくい深所(水深10-15m)にロガーを装着したエゾアワビを放流する予定である。得られたデータに関しては解析を行い、個体ベースモデルに反映する。加えて、卵による精子の選り好みを明らかにする受精実験を開始し、得られた稚貝に関しては父性判定が可能なサイズまで飼育して、父性判定を実施する予定である。
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