2015 Fiscal Year Research-status Report
ザンビアにおける潜在的病原ウイルスに関する調査研究
Project/Area Number |
15K18778
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
梶原 将大 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 研究員 (70711894)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ウイルス / 人獣共通感染症 / ザンビア / エボラウイルス / マールブルグウイルス / 新興感染症 / ウイルス性出血熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ザンビア共和国における疫学調査を通じて、潜在的病原ウイルスの生態およびその生物学的性状に関する知見を得て 、病原体としてのリスクを評価することを目標とする。本年度は研究計画に沿って以下の研究を実施した。 ザンビアで約500匹のマダニを採取し、フレボウイルス(ブニヤウイルス科)の遺伝子検出を試みた。その結果、約8%のマダニからフレボウイルス遺伝子断片が検出され、 分子系統解析により、それらウイルスが異なる3つのクラスターに分類されることがわかった。特にイボマダニから検出されたウイルスは、ヒトに熱性疾患を引き起こした報告のあるBhanjaウイルスと同じクラスターに属し、病原性を有する可能性が示唆された。また、キララマダニからはクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(ブニヤウイルス科)の遺伝子が検出された。ザンビアにおける同ウイルスの存在は未だ報告されておらず、感染症への先回り対策につながる結果が得られた。 フィロウイルスの生態を把握するために、5種648頭のコウモリ血清を用いてフィロウイルス感染症に対する血清疫学調査を実施した。ELISAの結果、エジプシャンフルーツバット142頭中51頭からマールブルグウイルスの表面糖蛋白質に対する抗体が検出され、同コウモリ群内におけるマールブルグウイルスの存在が示唆された。一方で、いずれのコウモリサンプルからも感染性フィロウイルスおよびその遺伝子は検出されなかった。しかし、ガンビアケンショウコウモリの臓器から培養細胞に変成効果を引き起こす未知のウイルスが分離された。次世代シークエンサーを用いた解析により、ヒトの流行性耳下腺炎の原因となるムンプスウイルスに近縁なパラミクソウイルスであることが分かった。今後はこのウイルスの病原体としてのリスクを評価する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画書の記載通り、本年度は上述のマダニ、コウモリ検体に加え、ヒト、ウシおよびブタの血清検体を本研究に十分なだけ入手することができた。これら検体を系統的に保存し、生物資源ライブラリを構築した。 また、計画書に記載した本年度の研究計画である「フレボウイルス遺伝子の検出」、「フィロウイルス感染症の血清疫学調査」および「野生動物におけるウイルス叢の解析」を全て開始することができた。既に、マダニからは複数のフレボウイルス遺伝子が検出され、分子系統解析も実施することができた。またマールブルグウイルス抗体陽性率の高いコウモリ群を特定することができている。「ウイルス叢の解析」においては、未だデータは得られていないが、次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析に必要となるコウモリ糞便検体からの遺伝子ライブラリの構築は終了しており、近いうちにデータが得られる見通しである。以上の内容を踏まえると、ほぼ計画通りに研究が進捗していると判断できる。 これら以外にも、本年度の研究活動を通じて、キララマダニからクリミア・コンゴ出血熱ウイルスの遺伝子が検出された。これまでザンビアにおける同ウイルスの存在は報告されておらず、ウイルスの地理的分布情報を更新するデータが得られた。また、コウモリ検体からヒトのムンプスウイルスに近縁なウイルスが分離された。これらの結果は、当初の計画には含まれておらず、追加的な研究成果と言える。従って、現段階で本研究は「当初の計画以上に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度得られたデータを元に、マダニからのブニヤウイルスの分離およびコウモリからのフィロウイルスの検出ないし分離を目指す。具体的には、マダニおよびコウモリの臓器乳剤を培養細胞あるいは乳飲みマウスの脳内に接種し、それぞれ細胞変成効果およびマウスの症状を観察する。ただし、BSL4実験室で扱うべきウイルスの存在が強く疑われる検体を得た場合はH Feldmann博士 (NIH) の協力を仰ぐ。ウイルスが分離できた場合、病原性、抗原性といった生物学的性状を解析する。特に、コウモリ由来ムンプス様ウイルスは、様々な実験用動物に接種することにより病原性に関する知見を得る。ウイルスが分離できなかった場合も、ウイルス遺伝子の全長を決定し、分子系統解析や分子生物学的手法を用いて、ウイルスの生物学的性状に関するデータをできるだけ多く入手し、病原体としてのリスクを評価する。 本年度入手したウシ血清を用いて、ダニ媒介性フレボウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスおよびリフトバレー熱ウイルスに対する抗体保有調査を実施する。また、ヒトおよびブタの血清を用いてフィロウイルス感染症に対する血清疫学調査を行う。これら血清疫学調査を通じて、病原ウイルスの生態に関する知見を得るとともに、頭蓋ウイルスによる感染症の発生リスクの高い地域を絞り込む。 本年度捕獲したコウモリの糞便サンプルを用いたVirome解析を引き続き実施し、コウモリが有する潜在的病原ウイルスに関する網羅的なスクリーニングを実施する。本年度入手したヒト血清の一部は、黄熱もしくは麻疹疑い患者由来の検体が含まれている。これらサンプルを用いて、従来のPCR法もしくは次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析によりウイルス遺伝子を網羅的にスクリーニングし、ザンビアにおける熱性疾患を引き起こしているウイルスに関する知見を得る。
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Causes of Carryover |
現在、平行して実施している他プロジェクトの業務によりザンビアを拠点に研究活動を実施している。本研究で使用する検体はそれら業務と共有しており、そのため、必要経費として計上していた旅費を支出する必要がなくなった。また、本年度は次世代シークエンサーの使用料に多くの経費を割く予定であったが、他の重要度の高い研究を優先させたため、当初計画していたよりも次世代シークエンサーの使用頻度が少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は次世代シークエンサーを用いたVirome解析の頻度が増える予定である。また、研究から良好な結果が得られており、学会参加および論文投稿などの発表活動にも予算を使用する予定である。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] A Single Amino Acid in the M1 Protein Responsible for the Different Pathogenic Potentials of H5N1 Highly Pathogenic Avian Influenza Virus Strains.2015
Author(s)
Nao N, Kajihara M, Manzoor R, Maruyama J, Yoshida R, Muramatsu M, Miyamoto H, Igarashi M, Eguchi N, Sato M, Kondoh T, Okamatsu M, Sakoda Y, Kida H, Takada A.
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Journal Title
PLoS One
Volume: 10(9)
Pages: e0137989
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Interaction between TIM-1 and NPC1 Is Important for Cellular Entry of Ebola Virus.2015
Author(s)
Kuroda M, Fujikura D, Nanbo A, Marzi A, Noyori O, Kajihara M, Maruyama J, Matsuno K, Miyamoto H, Yoshida R, Feldmann H, Takada A.
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Journal Title
Journal of Virology
Volume: 89(12)
Pages: 6481-93
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Seroepidemiological Prevalence of Multiple Species of Filoviruses in Fruit Bats (Eidolon helvum) Migrating in Africa.2015
Author(s)
Ogawa H, Miyamoto H, Nakayama E, Yoshida R, Nakamura I, Sawa H, Ishii A, Thomas Y, Nakagawa E, Matsuno K, Kajihara M, Maruyama J, Nao N, Muramatsu M, Kuroda M, Simulundu E, Changula K, Hang'ombe B, Namangala B, Nambota A, Katampi J, Igarashi M, Ito K, Feldmann H, Sugimoto C, Moonga L, Mweene A, Takada A.
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Journal Title
The Journal of Infectious Diseases
Volume: 212 Suppl 2
Pages: S101-8
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] Genetic divergence of phleboviruses newly identified in ticks collected in Japan, Zambia and the United States/日本国内外のマダニにみられるフレボウイルスの遺伝的多様性2015
Author(s)
Matsuno K, Shimoda H, Torii S, Yongjin Q, Brandi W, Nakao R, Kajihara M, Okamatsu M, Sakoda Y, Okumura A, Takada A, Tom S, Maeda K, Ebihara H.
Organizer
第63回日本ウイルス学会学術集会
Place of Presentation
福岡国際会議場(福岡県・福岡市)
Year and Date
2015-11-22 – 2015-11-24
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