2015 Fiscal Year Research-status Report
上皮成長因子受容体変異体vIII発現細胞の分子標的薬リード創製と作用機序解明
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15K18904
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Research Institution | Microbial Chemistry Research Foundation |
Principal Investigator |
木村 智之 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (40462270)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 構造活性相関 / 分子標的 / 上皮成長因子受容体変異体vIII / 作用機序解明 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮成長因子受容体変異体vIII発現細胞における足場非依存的増殖を阻害する低分子有機化合物Ertredinに関し、新たながん分子標的薬リード創製と作用機序解明を目指した構造活性相関研究を目的とし本研究に着手した。はじめにErtredinのアミノ基、ブロム基、カルボニル基及び環上の窒素原子等を除去した化合物を合成し、生物活性発現に必須となる各官能基(部分構造)を探った。その結果、活性発現に重要な役割を担っているのは、アミノ基、ブロム基であることを明らかになった。次に、アミノ基およびキノキサリノン環のNH 上にアルキル基ならびにアシル基等を導入し、当該箇所を足場とした各種誘導体展開が可能であるか確認を行った。アミノ基はアシル基を導入しても活性を保持しているが、キノキサリン環のNHにアルキル基を導入すると活性が消失することが明らかとなった。このことより、標的タンパク決定のためのプローブ作成の際、アミノ基はリンカー部の導入が可能であることがわかった。構造活性相関研究の拡張図るべく、既存置換基の変換だけでなく、置換基のない個所にも水酸基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、ハロゲンの導入を行った。しかし、ベンゼン環上に置換基を導入すると、足場依存的増殖活性阻害も示すようになるばかりか、毒性も高くなる傾向が見られた。以上のことより、ベンゼン環上の置換基は活性の選択性に重要な役割を担っていることがわかった。また、本化合物合成の際に生成する四環性の副生成物は、ほとんど活性を有していないことがわかった。これは、生体内の条件、酸性度や温度によって、Ertredinの構造が四環性化合物に変化した場合、活性が消失してしまう可能性を示している。そこで、Ertredinの酸性度及び温度に対する安定性を調べ、がん細胞中のpHにおいてErtredinはその構造を保っていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に従い、ファーマコフォアの同定を行った。アミノ基、ブロム基、カルボニル基及び環上の窒素原子等を除去した化合物の合成を行い、生物活性発現に特に必須となる各官能基(部分構造)がアミノ基、ブロム基であることを明らかになった。次に、アミノ基に対しアルキル基ならびにアシル基等を導入し、当該箇所を足場とした各種誘導体展開が可能であるか確認を行ったところ、活性を保持していることがわかり、各種誘導体展開の足掛かりとなりうることがわかった。また、キノキサリノン環のNH 上にアルキル基ならびにアシル基等を導入したところ、活性が消失することを明らかにした。本知見は、不活性体合成に役に立つと考えている。更に構造活性相関研究の拡張図るべく、既存置換基の変換だけでなく、置換基のない個所にも水酸基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、ハロゲンの導入を行った。しかし、ベンゼン環上に置換基を導入すると、足場非依存的増殖活性阻害能は失われ、ヒト正常細部に対する増殖阻害活性、すなわち毒性が高くなる傾向が見られた。 Ertredin の作用機序解明を目的としたプローブ化の検討を開始した。適切なリンカー長を決定するために、様々な長さを介したビオチン化体を合成し活性を評価した。更に、ジアジリンのような光反応性置換基の導入位置を変えた誘導体を合成し、活性を評価した。これにより来年度以降の実用的なプローブの創生に向けた重要な構造活性相関の知見が得られた。 なお、生物活性の評価においては共同研究者により常時稼働している、EGFRvIII を強制発現したNIH3T3 細胞の足場依存性増殖阻害を指標としたアッセイ系を利用し、合成した化合物、合成中間体はすべて本アッセイ系にて活性を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に調製を開始した分子プローブを用い、標的蛋白の同定を目指す。標的蛋白が判明することで、より詳細な構造活性相関研究が展開できることを期待する。ここでは被験細胞の溶解液と混合の後、確立された方法にて結合蛋白を回収した上でプロテオーム解析による同定を試み、得られた標的候補に関して抗体・siRNA などを利用し、当該蛋白の関与するシグナル伝達経路に与える影響を解析する。 本化合物に影響を受けるシグナル経路はEGFR 下流のものである可能性が高いと推測されるが、これとクロストークを持つ異種の経路であることも考えられ、容易に標的蛋白が確定できない状況も想定される。このような場合は遺伝子発現(DNA マイクロアレイ使用→クラスタ解析→Connectivity Map 照会)・蛋白リン酸化(2次元電気泳動とリン酸化蛋白染色)の網羅的解析からこれを特定し作用点を探る試みを強化する。また同時に比較的活性の低い、或いは望まない活性が強い誘導体についても相互作用蛋白の解析を検討し、本来の標的候補から外れる蛋白についても知見を積み重ねる。これは、限られた部分での電子的環境の変化(電子密度、水素結合授受能の逆転)は、結合に当該箇所を必要とする蛋白との親和性に強く影響するので、生物活性試験の結果と対照させることで真の標的同定に向けた絞り込みに役立つ。微細な構造の改変にも対応可能な所属研究室の知見蓄積を基盤とする全合成法の利点が発揮される。更に活性発現には標的蛋白だけではなくその結合部位が重要であることから、結合部位解明に向けて、分子プローブの設計を見直すとともに、競争阻害実験や標的蛋白とErtredinの共結晶作成を検討する。標的蛋白とErtredinの共結晶の測定は放射光の利用することを考えている。
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Causes of Carryover |
実験計画が順調に推移しているが、若干の未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の物品費に充当する。
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