2015 Fiscal Year Research-status Report
消化管内で過飽和溶解を示す薬物の新規消化管吸収性予測法の開発
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15K18946
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Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
田中 佑典 広島国際大学, 薬学部, 助教 (10435068)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 消化管吸収 / 難溶解性薬物 / 溶解 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請時は塩基性のモデル薬物としてジピリダモールおよびケトコナゾールを選択する予定であったが、酸性溶液中における溶解度が十分でなかったため、同じく塩基性の難溶解性薬物であるシンナリジンに変更した。 pH1.5の塩酸溶液にFITCデキストラン4000(非吸収性化合物)を200 Mおよびシンナリジンを400 g/mLまたは1700 g/mLの濃度で溶解させ薬液を調製した。次に、予めPentagastrinを20 g腹腔内投与およびpH1.8の塩酸溶液を0.5 mL経口投与したラットに薬液をそれぞれ1 mL経口投与し、経時的に胃、十二指腸、小腸上部、小腸下部から水分を採取した。そして、水分中のFITCデキストラン4000およびシンナリジン濃度を測定することにより、消化管各部位における薬物濃度-時間推移を評価した。 シンナリジンは弱塩基性であるため、胃内では大部分が溶解していたが、固体のシンナリジンも検出され、一部析出していたことが示された。十二指腸に移行後は、大部分のシンナリジンが析出したが、高投与量では飽和溶解度の約5倍程度過飽和溶解が見られた。一方、小腸上部以降では過飽和溶解は認められず、過飽和の吸収への影響は十二指腸に限定的であると考えられた。しかしながら、固体シンナリジンの溶解は上部以降においても速やかであり(FITCデキストラン4000の消化管内濃度との比較により解析)、中部まででかなりのシンナリジンが溶解し、吸収された。これは、析出したシンナリジン結晶の粒子径の減少または結晶形の変化が原因と考えられた。また、投与量の違いによる吸収挙動の差は認められなかった。従って、過飽和製剤による消化管吸収性の改善効果を評価・予測するためには、過飽和溶解のみならず、析出後の再溶解過程も重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
薬物投与量の違いが及ぼす過飽和溶解への影響を評価するため、腸液に対する薬物濃度がその飽和溶解度の8〜30倍となるような酸性薬液を調製する必要があった。しかしながら、当初、塩基性のモデル薬物として予定していたジピリダモールおよびケトコナゾールは酸性溶液中での溶解性が十分ではなかったため、モデル薬物を変更する必要があった。 また、シンナリジンを酸性溶液としてラットに経口投与した場合、ほとんどのシンナリジンが胃内で析出したため、小腸移行後の析出パターンを評価することが不可能であった。そのため、胃内での析出を抑えるため、種々の検討を行う必要があった。これは、あらかじめラットに酸性溶液およびペンタガストリンを投与しておくことにより改善された。
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Strategy for Future Research Activity |
過飽和製剤からの薬物吸収性を評価・予測するためには、吸収に影響を与える要因を明らかにしなければならない。 水溶性高分子や可溶化剤は、薬物の過飽和状態からの析出を抑制し、過飽和を安定化することが知られている。しかしながら、過飽和安定化効果は水溶性高分子や可溶化剤の種類により大きく異なり、その吸収改善メカニズムについては不明な点が多い。今後はヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子やジメチルスルホキシドなどの可溶化剤を薬物と共に経口投与し、消化管内薬物濃度パターンを評価することにより、これら添加剤が吸収改善に及ばす要因を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたモデル薬物の変更およびシンナリジンの酸性溶液経口投与後の胃内析出を抑制するため、種々の追加実験を行う必要があった。そのため、初年度の研究計画が遅れ、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
モデル薬物をシンナリジンに変更し、ラットに予め塩酸溶液およびペンタガストリンを投与しておくことにより問題は解決した。従って、今後は消化管内薬物濃度測定に基づいた吸収性評価法により、添加剤が薬物の過飽和溶解に及ぼす要因を明らかにする予定である。
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