2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K18954
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
辻 琢磨 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40725628)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ホスファチジルセリン / 急速凍結 / 凍結割断レプリカ / 免疫電顕 / 細胞膜 / オルガネラ膜 / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いて、生体膜脂質二重層を構成するホスファチジルセリン(PS)が、どのオルガネラの、どちらの膜葉に、どのように存在するのか(クラスター形成の有無や量)、すなわち、ありのままのPS局在を明らかにすること、さらに、その局在にどのような生理的な意義があるのかを追究することを目的としている。平成27年度はPSプローブの作製、出芽酵母・哺乳類細胞におけるPSの細胞内分布を解析することを目標とした。 当初の計画ではGST融合MFGE8-C2ドメインをPSプローブとして使用する予定であったが、他のPS結合ペプチドについてもリポソームやPS合成酵素欠損出芽酵母(cho1Δ)を用いて特異性を評価した所、GST融合evectin2-PHドメインが非常に特異的にPSと結合することがわかった。 そこで、本プローブを用いて出芽酵母各オルガネラ膜の細胞質側及び内腔側膜葉におけるPS分布を解析した。その結果、PSは小胞体と核膜では細胞質側、内腔側膜葉にほぼ等しく存在し、ゴルジ体では細胞質側膜葉に豊富に存在することがわかった。また、液胞膜、細胞膜ではほぼすべてのPSが細胞質側膜葉に存在していた。このことから、出芽酵母においてPSは、合成場所である小胞体ではなく、ゴルジ体で非対称性を獲得し、細胞質側膜葉に偏在化することが初めて明らかになった。続いて我々は、マウス胎児由来線維芽細胞(MEF細胞)の細胞膜におけるPS分布の解析を始めた。特に、クラスター形成の有無や、カベオラ、クラスリン被覆ピットとの関係に注目し解析を進めている。また、核、ミトコンドリア、ゴルジ体についても同様に解析を行っている。さらに、EGFP融合Rab18(小胞体マーカー)を発現させたMEF細胞株を樹立し、抗GFP抗体とPSプローブによる二重標識により小胞体でのPS分布についても解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の達成目標は、(1)PSプローブの作製、(2)出芽酵母におけるPSの局在解析、(3)哺乳類細胞の細胞膜におけるPSの局在解析、(4)哺乳類細胞のオルガネラ膜におけるPSの局在解析、(5)培養細胞の双面凍結割断レプリカ標識法の開発であった。このうち、(1)については当初計画していたMFGE8-C2ドメインだけでなく、AnexinV-C2ドメイン、Evectin2-PHドメインなど様々なPS結合ペプチドをプローブとして評価した。その結果、当初の予定よりも時間はかかったが、より良いものを作製することができた。このプローブを用いることで(2)を予定どおり完遂することができ、出芽酵母においてPSは、合成場所である小胞体ではなく、ゴルジ体で非対称性を獲得し、細胞質側膜葉に偏在化することが初めて明らかになった。PSプローブの作製に予定よりも時間を要したため、(3)(4)については計画よりも若干遅れているが、現在順調に進行し良好な結果を得ている。しかしながら(5)については手付かずとなってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、PSを偏在化させるメカニズムの解明と、非対称的なPS局在の生理的な意義を明らかにすることを目標とする。そのためまずは27年度にやり残した項目を速やかに完了する。 PS偏在化メカニズムの解明については、当初の予定どおり、出芽酵母のフリッパーゼであるdnf1、-2、-3、drs2、neo1の遺伝子欠損によってPSの分布にどのような変化が見られるかを急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いて解析する。また、各フリッパーゼを含むプロテオリポソームを作製し、ATP添加によりPSが内葉に移行する効率を検証する。 哺乳類細胞では14のP4-ATPaseがフリッパーゼとして働くと考えられている。そこで各P4-ATPaseのノックダウンにより、酵母同様、PSの局在にどのような変化が起きるかを解析する。特に小児の先天性肝内胆汁うっ滞となる進行性家族性肝内胆汁うっ滞(PFIC1)の責任遺伝子であるATP8B1の機能とPS局在の関係を明らかにし、分子レベルでの発症機序解明を目指す。 PS非対称分布の生理的な意義については、フリッパーゼの欠損により異常なPS分布が見られた場合や、あえてPS結合タンパク質を過剰発現させることで内在性PSの機能を阻害し、その表現型からPSの各オルガネラにおける役割を追究する。初期エンドソームやリサイクリングエンドーソームにはPSが豊富に存在していることが報告されているため、まずは物質輸送に関わるPSの役割に注目し研究を進める。
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