2015 Fiscal Year Research-status Report
衛星細胞と筋線維芽細胞の相互作用:HGFシグナルによる衛星細胞の活性化制御
Project/Area Number |
15K18968
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
林 真琴 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50722930)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 衛星細胞 / Ror1 / 炎症性サイトカイン / 筋損傷修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
損傷を受けた骨格筋は、筋組織の幹細胞である衛星細胞(SCs: satellite cells)が筋芽細胞に分化し、筋芽細胞が融合し筋管へと成熟することによって修復される。筋損傷時の衛星細胞の活性化(増殖、運動能の亢進、生存、分化誘導)は筋芽細胞分化に重要であり、また周囲の微小環境(マクロファージ等)はこの活性化を支持しているが、衛星細胞と微小環境の相互作用を介した衛星細胞の活性化制御の分子機構はいまだに不明な点が多い。我々は、カルディオトキシン(CTX: cardiotoxin)により前脛骨筋に損傷を誘導したマウスモデルを用いて、筋損傷部位においてWnt5aの受容体の一つである受容体型チロシンキナーゼRor1が衛星細胞で発現していることを見出していた。しかしながら、Ror1の発現制御機構、およびSCsにおけるRor1の役割についてはほとんど分かっておらず、まずはこれを解明することにした。その結果、筋損傷時に産生される炎症性サイトカインTNF-αおよびIL-1βがRor1の発現誘導に関与していることが明らかとなった。さらに、in vivoおよびin vitro実験の結果から、Ror1はSCsの増殖に関与していることが明らかとなった。現在、以上の結果をもとに論文を作成中である。筋損傷修復時におけるRor1の発現誘導機構およびSCsにおけるRor1の役割が明らかとなったことで、今後の実験も進捗すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私は、カルディオトキシン(CTX: cardiotoxin)により前脛骨筋に損傷を誘導したマウスモデルを用いて、筋損傷部位においてRor1の発現が亢進すること、およびRor1の発現亢進に先立ち炎症性サイトカインTNF-αとIL-1βの発現が亢進することを見出した。また、FACSを用いて分離したSCsにRor1の発現が限局していることから、Ror1はSCsに排他的に発現していることも明らかにした。CTX誘導による損傷前脛骨筋にTNF-αおよびIL-1βの中和抗体を投与することによりRor1の発現亢進が減弱すること、また、マウス筋芽細胞株C2C12細胞おいてTNF-αまたはIL-1β刺激によりRor1の発現が誘導されることから、TNF-αおよびIL-1βシグナルはRor1の発現誘導に関与していることが強く示唆された。これらのサイトカインに共通する細胞内シグナル伝達因子NF-κBに対する阻害剤およびp65(NF-kB構成タンパク質)に対するsiRNA導入による発現抑制の実験から、TNF-α/ IL-1β誘導のRor1発現亢進が阻害されることが見出され、TNF-α/IL-1βによるRor1の発現誘導はNF-κBを介していることが示された。興味深いことに、CTX誘導による損傷前脛骨筋にTNF-αおよびIL-1βの中和抗体を投与することにより、SCsの増殖が抑えられることを見出した。また、SCs特異的なRor1欠失マウスを用いた前脛骨筋損傷実験においても、SCsの増殖が抑制された。以上の結果から、筋損傷時に産生された炎症性サイトカインTNF-αおよびIL-1βがSCsにおけるRor1の発現を誘導し、Ror1がSCsの増殖に関与していることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
我々は、平成27年度の研究で、SCsにおいてRor1が炎症性サイトカインにより発現誘導されること、またRor1はSCsの増殖促進に関与していることを見出した。さらに、HGFによるSCsの増殖促進作用がRor1の発現に依存しているという先行実験の結果を有している。本年度においては、まず1)HGFシグナルとRor1に制御されているSCsの細胞内におけるシグナル伝達のクロストークについて、C2C12細胞を用いたin vitro実験で明らかにし、2)HGFを産生していると考えられている筋繊維芽細胞(MFBs: myofibroblasts)とSCsのクロストークを、FACSを用いて(損傷)筋組織からMFBsおよびSCsを分離し、直接的および間接的な共培養実験を3)CTX誘導前脛骨筋損傷マウスモデルとSCs特異的なRor1欠失マウスを用いて筋損傷修復時のHGFシグナルとRor1が関与するSCsの増殖制御をin vivoレベルで明らかにすることを予定している。
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Causes of Carryover |
昨年度は、マウス筋芽細胞株C2C12細胞を用いたin vitro実験を中心に炎症性サイトカインによるRor1の発現誘導機構の解析を行ったため、衛星細胞特異的なRor1欠失マウスを用いたin vivo実験のために用意するマウスの量が当初予定していた量よりも減少させ、本年度はこれらのマウスを用いた実験を中心に行う。また、同様にRor1の発現誘導解析に着目したため、HGFシグナル経路の解析に用いる阻害剤の購入やそれらの経路に関わるタンパク質のsiRNAの購入を控えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金については、当初の計画どおりに使用するとともに、次年度使用額については、本研究計画にあるin vivoにおけるHGFシグナルとRor1シグナルのクロストークの解析に使用する。
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Research Products
(1 results)