2015 Fiscal Year Research-status Report
eEF1BδL欠損によるてんかん様発作の分子病態解明
Project/Area Number |
15K18971
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
貝塚 拓 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (00435926)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | てんかん / 恐怖条件付け / 熱ショックタンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではeEF1BδL蛋白質の欠損マウス(以下δL欠損マウス)で音刺激により誘発される痙攣発作の病態の解明とその分子メカニズムを明らかにすることを目的として研究を進めている。平成27年度では申請書の「研究の目的」及び「研究計画」に示したものについて以下の研究成果が得られた。 1、δL欠損マウスではペンチレンテトラゾールによる痙攣誘発に易感受性を有する。ペンチレンテトラゾールは代表的な痙攣誘発剤であり、てんかん発作のモデルとして広く用いられている。本剤はGABAA受容体の拮抗剤であり中枢で神経活動の異常興奮を誘発する。本結果はδL欠損マウスはGABAA受容体遮断による異常興奮が起こりやすい状態であることを示唆する。 2、δL欠損マウスにおいて音刺激による痙攣発作は若齢マウスほど起こりやすい。6、12、20週齢で比較したところ6週齢のマウスで4匹に1匹という頻度で痙攣を起こし、発作には週齢依存性があることが示唆された。 3、音刺激を含む一連の恐怖条件付け実験を経た野生型マウスの脳で熱ショックタンパク質(Hsp)遺伝子の有意な増加が認められた。一方でこの変化はδL欠損マウスでは観察されなかった。この結果によりδL欠損マウスで起こる痙攣発作にHspが関与することが示唆された。 4、δL欠損マウスではCa2+チャネル遺伝子の発現量が減少している。マイクロアレイ解析により野生型マウスとδL欠損マウスの脳で遺伝子発現レベルの違いを解析したところ、あるCa2+チャネルをコードする遺伝子が減少していることがわかった。このチャネルは遺伝性てんかんの原因遺伝子であり、この減少もδL欠損マウスの痙攣発作に関与している可能性が示唆された。 以上の研究成果は痙攣発作の分子メカニズムに迫る知見であり、一般的なてんかんの分子病態を解明する上でも重要である。今後の研究では直接の因果関係を証明する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度では「研究の目的」に設定した研究項目について以下の2つの重要な知見が得られた。 1、音刺激を含む一連の恐怖条件付け試験を試行した野生型マウスの脳でHsp遺伝子が有意に増加するがδL欠損マウスでは増加しない。 2、δL欠損マウスではCa2+チャネル遺伝子の発現量が減少している。 以上の知見はδL欠損マウスで痙攣発作が誘発される分子メカニズムを解明する上で非常に重要であり、今後の研究のブレークスルーとなり得る。研究が順調に進行し、さらに分子メカニズムを示唆する結果が得られたことから本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も申請書の「研究の目的」、「研究計画」に沿って研究を遂行する。またHsp及びCa2+チャネルが痙攣誘発に関係する分子として得られたことから、これらの分子に焦点を絞った研究を行う。 1、抗てんかん薬の効果の検討:てんかん発作の治療には発作のタイプに基づいて治療薬を選択する。部分発作と強直間代性発作に有効なフェニトイン、欠神発作に有効なエトスクシミドなど臨床適用の異なる薬物がそれぞれδL欠損マウスの痙攣発作に有効であるかを明らかにする。 2、脳組織学的解析:野生型とδL欠損マウスで脳の形態を比較する。脳切片のニッスル染色により大脳皮質および海馬の細胞層の形態を比較し、脳組織学的な異常がないか明らかにする。さらに恐怖条件付けを試行したマウスの脳切片を作成しHsp及びCa2+チャネルの免疫染色を行い、これらのタンパク質発現分布に違いがあるか、あるとすればどの脳領域で起こるか明らかにする。 3、けいれん誘発時のδLの活性化:δLはスプライシング変化により発現量が増加すること、さらにリン酸化・脱リン酸化によってその活性が制御されることを発見している。そこで野生型マウスで正常時および痙攣誘発時のδLの発現量とリン酸化レベルを比較する。また恐怖条件付けを試行したマウスの脳を用いたクロマチン免疫沈降法により、δLがHspやCa2+チャネルの遺伝子発現制御領域に結合するか、またその結合が増強するか否か明らかにする。 以上の研究によりδL欠損マウスで起こる痙攣発作の分子メカニズムを明らかにし、雑誌論文を通して社会に公開する。
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