2015 Fiscal Year Research-status Report
MEK遺伝子変異がもたらすERK経路の異常活性化機構と疾患誘導プロセスの解明
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15K19019
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保田 裕二 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70614973)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | MAPK経路 / 癌 / 先天性疾患 / 遺伝子変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
ERK経路は細胞増殖、分化、発癌制御など各種細胞機能を担うシグナル伝達経路である。最近、孤発性癌および先天性Ras/MAPK症候群の遺伝学的解析から、ERK経路のMAPKKであるMEKの遺伝子変異が多数同定され、それに応じてERK経路下流の特定遺伝子群が発現亢進/抑制する事を見出した(未発表)。そこで本年度では、こうした遺伝子発現プロファイルの相違が各疾患特有の臨床所見を導く分子機序を究明すべく、各疾患で特異的に発現する新規遺伝子の生理機能を分子レベルで解析し、疾患発症への関与の解明を試みた。 まず、上述のように癌由来のMEK発現細胞で特異的発現を示す遺伝子を選別した。その結果、機能未知のコーディング遺伝子(蛋白質)の他に、蛋白質をコードしない、機能的長鎖RNA分子(LincRNA)が高度に発現誘導されることを見出した。そこで次に、これらの遺伝子の癌細胞株(悪性黒色腫、肺癌、大腸癌など)での発現パターンを確認するために、特異的抗体または定量PCRにてこれら蛋白質・LincRNA分子を解析したところ、正常細胞(無刺激時)と比較して、これらの遺伝子産物が常に高発現している事を明らかにした。また興味深い事に、ERK経路を活性化する癌遺伝子(EGFR、Ras、Raf)を正常細胞に導入することで、これらの遺伝子が強く発現誘導されることを見出した。さらに、この活発な遺伝子発現がERK経路の活性化に依存していることを確認するため、同経路の阻害剤(RafまたはMEK阻害剤)にて各種癌細胞株を処理したところ、これらの遺伝子発現が大幅に抑制することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、機能未知のコーディング遺伝子(蛋白質)およびノンコーディングRNA分子(LincRNA)が特に癌で特異的発現を示すことに着目し、その発現プロファイルを解析した。新規蛋白質については、本研究室で所有している抗体がウェスタンブロットや免疫沈降、および細胞/組織免疫染色に使用可能であることが明らかとなった。これを利用し、同遺伝子が癌細胞株(悪性黒色腫、肺癌、大腸癌など)で高発現している事を確認した。また、新規ノンコーディング遺伝子(LincRNA)については特異的プライマーを設計し、これを用いた定量PCRを行う事で、癌細胞で高発現している事を明らかにした。また、LincRNAについては、データベース上に登録されていない新規スプライシングバリアントの存在を明らかにした。さらに、ERK経路に対する阻害剤(RafやMEKを標的とする特異的阻害剤)を癌細胞株に処理する事で、これら新規遺伝子の発現がほぼ完全に抑制されたことから、ERK活性に依存した発現様式であることを確認した。これらの成果は次年度の研究計画を実施する上で必要なデータであり、当初の計画で期待された成果であることから、本研究計画は概ね順調な進捗状況であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度にて得られた知見を基に、同定された新規遺伝子群の分子機能を解析する。まず、これらの遺伝子を高発現またはノックダウンした細胞株を樹立し、その細胞増殖能や運動能、あるいは細胞死に対する抵抗性など、がん化・悪性化に関わる諸形質について、in vitroでの検証を行う。また、これら新規蛋白質に結合する分子を同定するため、免疫共沈によるアッセイを行う。新規蛋白質分子についてはFlagタグをN末端に導入し、細胞内に安定発現させた後、抗Flag抗体にて免疫沈降する。Flagペプチドにて溶出し、電気泳動にて分離・銀染色で蛋白質を可視化したあと、各蛋白質をLC-MS/MSにて同定する。また、新規Linc分子についてはRNA immunoprecipitation法 (RIP法)を用いて、その結合分子の同定を試みる。試験管内にて5'-Bromo-UTP(BrUTP)存在下で対象LincRNAを合成し、これを細胞破砕液と混合する。BrUTPを含むLincRNAは、抗BrdUTP抗体によって認識・トラップされるので、同抗体を用いた免疫沈降法にてこれを回収し、LC-MS/MSにて同様に結合蛋白質の同定を試みる。その後、同定された結合分子の生理機能が、上述の新規遺伝子産物との相互作用によって変化するかを検証する。 さらに、これらの新規遺伝子が上述の検討にて細胞の各種形質変化に重要である事を確認した後、生体内での細胞癌化においても実際に各遺伝子の高発現が重要である事を検証する。本目的のために、ヌードマウスを用いたXenograft実験を実施する。具体的には、各遺伝子を高発現またはノックダウンした癌細胞株をヌードマウスに移植し、形成された腫瘍の大きさ・重量を測定すると共に、マウスの生存率を算出することで、発癌および病態への影響を観察する。
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