2015 Fiscal Year Research-status Report
新規遺伝子編集ツールを用いた遺伝病患者由来細胞がん細胞の作製
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15K19041
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
長尾 和右 北里大学, 医学部, 助教 (60392487)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | CRSPR/Cas9 / iPS細胞 / 遺伝病 / NBCCS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では高発癌を特徴としPTCH1を責任遺伝子とする優性遺伝病である母斑基底細胞癌症候群 (NBCCS) 患者由来細胞を用いて、残存している正常アレルに遺伝子編集ツールであるCRISPR/Cas9システムを利用してセカンドヒットを導入したiPS細胞を作製し、マウスに移植後、腫瘍形成能を解析することを目的とした。 まず遺伝子導入効率が高く遺伝子編集も比較的容易であることを確認済みのヒト子宮頸癌由来細胞株HeLaを用いて、PTCH1遺伝子内に存在するSNP部位を標的とした遺伝子編集を行った。SNP部位特異的に設計した標的配列を含むCRISPR/Cas9発現ベクターを遺伝子導入後、限界希釈を行い、得られたクローンからゲノムDNAを抽出し、標的部位を塩基配列決定したところ、標的としたアレルでのみ遺伝子編集が行われたことが確認された。 複数のNBCCS患者に由来する線維芽細胞に4因子 (OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC) をコードしたセンダイウイルスを感染させ、iPS細胞株を樹立した (国立成育医療センター研究所との共同研究)。これらのiPS細胞株のうち、残存アレルの変異導入確認が容易なことから、PTCH1遺伝子座を含む約1.1 Mbの領域を欠損した症例のiPS細胞株を用いて遺伝子編集を試みた。CRISPR/Cas9発現ベクターを複数種類構築し、遺伝子導入後、得られたクローン細胞を解析したところ、標的配列によって遺伝子編集効率に大きな差があることが明らかとなった。最も効率よく編集を行えた標的配列では解析した21クローン中5クローンで編集されていたのに対し、効率が悪い配列では379クローン解析して編集されたクローンはなかった。 PTCH1遺伝子には複数の選択スプライシングアイソフォームが存在するため、現在それら全てのアイソフォームの発現を消失させる標的配列を設計中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、遺伝子導入の効率が高く、クローン化も容易なヒト子宮頸癌由来HeLa細胞を用いて遺伝子変異導入の基礎実験を行う予定であった。HeLa細胞のPTCH1遺伝子におけるSNP部位のうち1アレルをNBCCS患者における突然変異を生じたアレルと見立てて標的配列を設計し、遺伝子導入を行ったところ、実際にアレル特異的な遺伝子編集が可能であることが確認され、平成27年度の研究計画が達成された。 そこで次年度の研究計画であるNBCCS患者由来細胞を用いた遺伝子編集を前倒しして行った。本研究課題の最終目標はNBCCS患者由来細胞からセカンドヒットとなる遺伝子変異を導入したiPS細胞を樹立し、マウスに移植して腫瘍形成能を確認することである。NBCCS患者由来線維芽細胞から樹立されたiPS細胞 (国立成育医療センター研究所との共同研究) に対して、変異導入を試みたところ、標的配列に依存するもののiPS細胞でも遺伝子変異導入が比較的容易に行えることが確認されたことから、当初の研究計画よりも大幅に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者の研究室では遺伝子編集ツールとしてのCRISPR/Cas9システムの発表後、いち早くCRISPR/Cas9システムの中心となるベクターを入手し、ヒト細胞株 (HeLa、NIH3T3等) を用いて基礎的実験を行ってきた。使用した細胞株は比較的遺伝子導入効率の高い (~90%) 細胞株が中心であった。しかしながら本研究課題で用いているiPS細胞は遺伝子導入効率は決して高くなく (~30%)、同一の標的配列を用いても変異導入されたクローンが得られる確率はHeLaに比べて低いことが確認された。現在のところ標的配列から編集効率の差を判断する方法は発表されておらず、使用する標的配列で効率よく遺伝子編集が行えるかどうかは、実際に遺伝子導入を行ってみるよりほかない。標的配列を1つずつ確認していては研究期間内の目標達成が難しいと思われる。そこで複数~十数種類程度の標的配列を設計し、今後の実験に供する予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度研究計画で予定していたHeLa細胞を用いた遺伝子編集の基礎実験が早期に終了し、NBCCS患者由来iPS細胞を用いた遺伝子編集を前倒しで行った。当初予定の実験にかかる費用が抑えられた一方で、iPS細胞の継代・維持に使用する培地・試薬類はHeLa細胞で使用するものと比べ高額 (培地 500 mlで35,000円等) なものが多く、購入するには足らない残額は次年度使用額としてそれらの培地・試薬類の購入に充てた方が効率がよいと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
iPS細胞はHeLa細胞に比べ同一の標的配列を使用しても遺伝子編集効率が低いことが確認された。そのため、複数~十数種類の標的配列を設計・使用し、研究を遂行する予定である。その分iPS細胞の継代・維持に必要な試薬・培地量が増加することが考えられるため、これらの購入に充てる予定である。
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