2015 Fiscal Year Research-status Report
Heterogeneityに着目した悪性脳腫瘍における治療抵抗性機序の解明
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15K19067
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
増井 憲太 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (60747682)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 悪性脳腫瘍 / 組織内不均一性 / mTORC2 / がん代謝 / エピジェネティクス / ヒストンアセチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヒトの腫瘍の中でも最も悪性度が高い脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ) において、腫瘍内部のheterogeneity (組織内不均一性) と治療抵抗性の関係を、ヒト標本を用いることで明らかにしようとするものである。特に、われわれがこれまでに明らかにしてきたEGFR-mTORC2経路により制御されるがん代謝、そして代謝活動により誘導されうるエピジェネティクス変化に着目することで解明を試みる。本研究により、未だ有効な治療法の少ない膠芽腫の治療開発につながりうる新たな病態を明らかにすることを最終的な目的としている。 本年度は、剖検で得られた膠芽腫の症例を用いた解析により、同一腫瘍であってもその内部がEGFRおよびmTORC2シグナル異常の不均一性により区分できることが明らかとなった。さらには、EGFR-mTORC2の組織内不均一性と、がん代謝関連酵素の発現およびヒストンアセチル化で代表されるエピジェネティクス変化が相関関係にあることを定量免疫組織化学的解析により証明した。また、細胞系列を用いた生化学的解析により、このエピジェネティクス変化 (ヒストン修飾) がmTORC2により制御されていることを解明し、ヒストン修飾が腫瘍化促進に働く複数の遺伝子領域に起こることも確認した。 これらの結果は、悪性脳腫瘍において、われわれが着目するmTORC2シグナルの組織内不均一性ががん代謝、ひいてはエピジェネティクス変化を制御し、腫瘍促進的に働いていることを示唆するものである。また、将来的な治療戦略を考える際に、がん代謝およびエピジェネティクス変化の組織内不均一性が存在することを認識する必要性も提起する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究で最も重要と位置づけられる、ヒト悪性脳腫瘍標本における標的シグナルの組織内不均一性を明らかとし、その不均一性に基づきがん代謝およびエピジェネティクス変化が制御されることを解明することができた。さらには、同機序が腫瘍化促進に働く可能性も提示することができたと考える。本年度中に勤務地 (実験場所) の異動があり、目標としていた検体解析数が若干少なくなってしまったが、新しい勤務地で解析検体は十分に補充可能である。また、細胞実験を含めたその他の分子生物学的解析は予定通り進めることができ、研究全体としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、悪性脳腫瘍におけるmTORC2シグナルの組織内不均一性に基づき、ヒストン修飾をはじめとするエピジェネティクス変化が制御されることを明らかにしてきたが、さらにmTORC2とヒストン修飾の間をつなぐ新規の制御機構を同定することで、治療標的となりうる分子の検討が可能になると考えられる。また、悪性脳腫瘍内部における代謝およびエピジェネティクス不均一性の腫瘍生物学的および治療的意義を検討する。すなわち、mTORC2異常のある部位でがん代謝およびエピジェネティクス変化 (ヒストンアセチル化) が促進される結果、具体的にどのような遺伝子群が影響をうけ、さらにはその部位がどのように腫瘍化促進および治療抵抗性に関与しているのかという点について、細胞培養系での解析および臨床応用に向けた動物モデル作成を試みることで検討を進める。
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Causes of Carryover |
理由として2点考えられる。一つは、本研究に関連した実験器具や試薬に関する支払いが他の民間助成金で一部支払い可能であったこと。もう一点は、本年度中に勤務地 (実験場所) の異動があり、一定期間実験を中断せざるを得ず、そのために本年度に目標としていた検体解析数が少なくなってしまったことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金と合わせて、引き続き消耗品を中心とする物品費の支払いに使用させていただく。その際、本年度の未使用額は、本年度中の異動のため解析数が少なくなってしまった検体を、現在の新しい勤務地 (実験場所) で改めて収集し解析する際の費用として使用させていただく。
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