2015 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病病態形成における自己免疫疾患関連遺伝子Lnk/sh2b3による新規制御機構
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15K19082
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
森 泰三 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, その他 (40625307)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 疾患関連遺伝子 / 2型糖尿病 / 免疫学 / シグナル伝達 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年のゲノムワイド関連解析によりI型糖尿病やセリアック病をはじめとする自己免疫疾患関連遺伝子として細胞内アダプター蛋白質Sh2b3/Lnkの1塩基多型が報告されてきているが、自己免疫疾患との関連やその制御機構については不明である。Lnk欠損マウスを用いて、耐糖能の変化およびその原因となりうる脂肪内炎症に着目し検討を行った。まず、耐糖能およびインスリン抵抗性について調べたところ、Lnk欠損マウスはインスリン抵抗性に伴う耐糖能異常が誘導されている事が明らかになった。脂肪内に局在する細胞集団を詳細に調べた所、CD45+の免疫細胞集団、特にNK細胞およびM1マクロファージが顕著に増大している事がわかってきた。また、Lnk欠損マウスの脂肪内においては野生型マウスと比較してIFN-γやTNF-αといった炎症性サイトカインの遺伝子発現が増加している事から脂肪内炎症が誘導されている事が示された。次に、Lnkの制御分子として同定されていたIL-15に着目して検討を進めた。Lnk/IL-15二重欠損マウスを作成し解析を行ってみると脂肪内炎症および耐糖能異常が改善されることが明らかとなり、IL-15依存的細胞集団がLnk欠損マウスの脂肪内炎症を制御している事が予想された。さらに、Lnk欠損により誘導される脂肪内炎症の責任細胞を同定するため、顕著な増加が見られたNK細胞に着目した。抗体によってLnk欠損マウスのNK細胞を一定期間枯渇させるとM1マクロファージの増大が抑制され、耐糖能異常についても回復する傾向が見られた。以上の結果より、LnkはNK細胞のIL-15反応性を制御する事で糖尿病の発症を抑制している事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を始めた当初、定常状態におけるLnk欠損マウスの血糖値は野生型マウスと比較してわずかに高い傾向である一方で、インスリン分泌量や個体重量は野生型と変わらないことより、2型糖尿病モデルとしての可能性およびその新規制御機構を見いだすことを期待していた。糖負荷試験による検討の結果、Lnk欠損マウスは予想以上に耐糖能の低下が著しく、また強いインスリン抵抗性をもつことより日本人に多く見られるような非肥満性の2型糖尿病を自然発症するということをはじめて明らかにした。また、我々のグループの先行研究においてLnkはCD8+T細胞や樹状細胞においてIL-15の反応性を制御する分子である事を明らかにしていたことから、Lnk欠損マウスの誘導する糖尿病の制御機構や責任細胞を予定より迅速に絞り込む事ができた。Lnk欠損内脂肪組織ではIL-15依存性細胞集団であるCD8+T細胞およびNK細胞が脂肪内炎症の責任細胞であると予想し、両細胞集団の関与をしらべたところNK細胞を枯渇させた時にのみ耐糖能が改善される傾向が見られた。IL-15に対する反応性亢進は脂肪内NK細胞の増殖を誘導し、マクロファージを活性化することで炎症のポジティブループを形成するという非肥満性2型糖尿病における新規制御機構を提示するに至った。以上の結果より、本研究は初年度としてはおおむね順調に進展しており、今年度中の論文化が期待できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Lnk欠損マウスは定常状態において2型糖尿病を自然発症することを示してきたが、高脂肪食負荷時において脂肪内炎症や耐糖能がより悪化するのかどうか、またIL-15依存的な現象であるかどうか等を中心に検討を行っていく予定である。Lnkは細胞内においてJAK2/3に結合してシグナルを抑制している分子であることより、JAKインヒビターがLnk欠損マウスの糖尿病が改善するかどうかを明らかにすることでIL-15反応性亢進による糖尿病病態形成の新規治療法になりうるのかどうかを検証していく。また、Lnk欠損マウスを非肥満性2型糖尿病モデルマウスとして用い、腸内細菌層との関連を調べる。さらに、造血時においてLnkの発現が低下し幹細胞の増殖を促進させる機構があるように、高脂肪食負荷時に脂肪内の免疫細胞が増大する際の制御因子となりうることが予想される。Lnk-Venusノックインへテロマウス用いて、高脂肪食負荷時の免疫細胞におけるLnkの発現をモニターする。レポーターマウスで低下が確認された場合、野生型マウスを用いて高脂肪食負荷時の特定の細胞集団におけるLnk遺伝子の発現を確認する。
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Causes of Carryover |
実験計画に記載していた腸内細菌層に関する実験を業者に委託した所、数ヶ月を要するものであったので次年度に繰り越して決算して頂く事とした為。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Lnk欠損マウスの腸内細菌層の網羅的解析に使用する。糞便からDNA抽出しシーケンスデータを取得後、メタゲノム解析を行い非肥満性2型糖尿病との関連のある細菌層を同定する。
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