2016 Fiscal Year Research-status Report
医学部入学者選抜システムと学生の学習経験に関する日英比較研究
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15K19147
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柴原 真知子 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (40625068)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医学教育 / 入学者選抜 / 格差 / 生涯学習社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イギリスにおける2000年代後半からの医学部入学者選抜改革の動向を調査するとともに、日本における医学部入学者選抜をめぐる課題にいかなる示唆を得られるのかを検討することを目的とした教育学研究である。イギリスでは生涯学習社会への移行に伴って、いわゆるペーパー試験で測ることのできる学力試験から、面接などを工夫したNon-Academic能力を評価する入学者選抜へと変化してきたと考えられる。2016年度は、①2000年末から現在に至るまでのイギリス医学部入学者選抜改革に影響を与えたと考えられる資料収集と改革の実際についての調査、②日本の入学者選抜制度下における学習・教育上の課題把握のための実践的研究、③研究方法論を構築するための文献収集を柱とした。①については、2009年当時のイギリス政府下で作成された調査報告書 “Unleashing Aspiration: the Final Report of the Panel on Fair Access to the Professions” が大学入試改革を方向づけた重要文書であると位置づけ、翻訳に取り組んだ。②については、日本医学教育学会などにおける学生と教員との対話プログラムの企画・運営を通じて、現行の入学者選抜システムの下で受験勉強経験を経て医学部に入学した学生が、どのような課題を直面しているのか、また教員は日々、医学生と向き合う中で彼らの能力や姿勢についてどのように捉えているのか、医学部で求められる能力とのギャップとして何を実感しているかを理解することに努めた。③としては、単なる制度論の比較ではなく、教育学研究としての独自のアプローチを検討するために、教育学や歴史学、社会学、哲学などの視点から医学部入学者選抜制度とその人間的・社会的影響を多面的に理解するため、国内外の関連する学術研究の成果を収集・検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗は「おおむね順調である」と言える。以下、【研究実績の概要】の①~③に沿ってそれぞれ進捗状況を整理する。 ①2016年度の研究の一環として翻訳した調査報告書 “Unleashing Aspiration: the Final Report of the Panel on Fair Access to the Professions”は、現代イギリス社会における専門職者と格差の問題を定期した文書として注目される。イギリス社会では、第二次世界大戦以降に社会的流動性は高まったが、近年になるにつれ一定の社会的経済的文化的階層から医師を含めた専門職に従事する傾向が強いことが指摘されている。同署はこのことがイギリス社会における若者の「意欲(aspiration)」形成に影響しうることを指摘しており、21世紀における医学者選抜試験のあり方を検討するにあたって重要であると考える。 ②海外動向調査に終始しないために、日本の現行の入学者選抜制度を経験した学生と教員の認識を理解することは重要である。代表者は、日本医学教育学会などにおいて医学生と教員を対象とした対話プログラムを企画・実施することを通して、日本における入学者選抜制度の課題を理解することに努めた。 ③“Unleashing Aspiration”の報告書から得られる重要な示唆とは、入学者選抜制度は若者の意欲(aspiration)形成や専門職と中間層との関係の構築、専門職者の自己形成にも影響しうるという視点である。既存の入学者選抜者制度において医学生がどのような自己形成を経て入学に至っているのか、またそれと医師として求められる能力(コンピテンシー)としてとの間にどのようなギャップが生じているか、それはいかなる教育方策によって乗り越えることが可能なのかという一連の研究課題が浮き彫りとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
三年目となる次年度は、以下の三つに置いた研究を進める。 ①まずは、入学者選抜研究方法論の構築に向けた作業を行う。これまで大学入学者選抜制度については社会制度論や教育行政論、社会学的アプローチが採られてきたが、 ‘Unleashing Aspiration’が示唆するように人の専門職者としての自己形成にも影響する。教育学研究として医学部入学者選抜を検討することを目指す本研究において、どのようなアプローチで論じるべきかを明確にする必要がある。近代以降の大学入学者選抜制度は、現代に至るまで歴史的にどのように変遷を遂げており、それは医師養成の在り方や能力、倫理観などに影響しているものと考えられる。生涯学習社会への移行に伴ってどのような認識上の転換が求められるのかを検討する必要がある。教育学のみならず、歴史学や哲学など学際的な検討が求められる。 ②次に、イギリスにおける医学部入学者選抜プロセスにおける民間団体の関与についての現地調査を行う。これまでの調査から、イギリスでは医学部入学者に見られる格差を解消し、より社会に開かれた自己形成を促すことをねらいとして民間団体が、高校生対象のサマースクールを開催するなどしていることが明らかとなった。今年度は、これらの民間団体と大学やその他、医学教育関連機関との連携の実態と、生涯学習社会における民間団体の関与の意義を検討したい。 ③日本における医学部入学者選抜についての学生及び教員の認識からの調査については、引き続きワークショップなどを通して実践的に理解することを目指す。学生や教員が医学部における学習/教育活動を通じてどのような課題を実感しており、それはどの程度、入学者選抜の問題と関連しているのかを検討する必要がある。これまでのワークショップから示唆される教育上の課題についても、来年度は学会や学術雑誌などを通して積極的に公表する。
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Causes of Carryover |
イギリス調査先との調整がつかず、資料収集を中心的に行ったため、計画していた渡英調査ができなかったことが主な原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は調査先をもう一度検討し直すなどして、前年度に実施できなかった渡英調査を行う。
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Research Products
(2 results)