2015 Fiscal Year Research-status Report
中毒例のヒト臓器・体液からの危険ドラッグ成分抽出と標準添加法による高感度機器分析
Project/Area Number |
15K19271
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
長谷川 弘太郎 浜松医科大学, 医学部, 助教 (40574025)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 危険ドラッグ / 死後体内分布 / QuEChERS法 / LC-MS-MS / 標準添加法 / マトリックス効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
中毒例のヒト臓器・体液からの危険ドラッグ成分抽出と標準添加法による高感度機器分析
研究の目的:危険ドラッグを代表として様々な薬物がハーブ、入浴剤やお香等と称して供給され、大きな社会問題となっている。申請者は、質量分析による薬毒 物の組成推定、ヒト臓器や体液等の法医解剖試料を中心に薬毒物類の抽出方法と、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析器(LC-MS-MS)等を用いた定性・定量分析方法の開発を試みる。定 量分析に標準添加法を用いることで、マトリックス効果や回収率の低下を解決し従来とは一線を 画する精密な薬物の臓器分布の測定を試みる。 研究の方法:試料は主に司法解剖で収集し、加えて警察や病院救急部などの他の臨床科とも協力し、生前のヒト試料の収集にも努める。試料の処理方法では主に抽出方法(固相抽出、液相抽出、QuEChERS法等)を検討し、試料の分析においては利用が可能な各種の分析機器(GC-MS、LC-MS-MS、TOF-MS等)を組み合わせ、最適な方法を探っていく。未知薬毒物の推定では、既存のデータベースやタンデム質量分析器、浜松医科大学実験実習機器センターにある高分解能質量分析器を用いて組成推定を行い、純品の入手と分析データの比較検討によって未知物質を明らかにする。 研究の結果:危険ドラッグ類が関与した数件の解剖事例で試料採取を行い、数種の合成カンナビノイド類と合成カチノン類、加えて幻覚剤類似物質であるジフェニジンについて抽出と分析を行い、その同定と定量分析が可能であった。加えて、その死後臓器分布を明らかにした。試料からの対象物質の抽出には液相抽出法とQuEChERS法を組み合わせを用いた。これらの成果は、Forensic ToxicologyやLegal Medicineといった学術誌で論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究試料の収集において、平成27年度では数件の危険ドラッグ関与の司法解剖を経験し、人体試料・危険ドラッグ類の収集が可能であった。解剖は主に申請者自ら行い、物質の同定とその定量分析のために充分な量の試料を採取することが出来た。加えて、物質の体内分布を明らかにするために、多岐にわたる人体試料を採取することが出来た。 対象物質の推定・同定では、物質のデータベースとの比較や高分解能質量分析器による組成推定をおこなった。これにより、対象物質を推定し純品を試薬会社から購入して比較することにより関与物質の同定が可能であった。分析方法・抽出方法の開発では、標準添加法を用いることによりマトリックス効果や回収率の変動を抑えることを可能とし、主にQuEChERS法を用いることによって広範な物質を回収できることを確認した。適宜、液相抽出を加えたり、温度条件を変えるなど試料によって工夫を行った。これらの成果はForensic ToxicologyやLegal Medicineといった学術誌で論文として報告した。平成28年度では、引き続き試料の収集と分析、改良を行いながら、結果を取りまとめて国際学会での発表や論文として成果を発信していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況が計画通りに概ね順調に進んでいるため、今後の研究も成果を継続、発展させるように推進していく予定である。 但し、危険ドラッグ類に関しては、店頭販売の規制、税関法の改正、包括指定の奏功などにより使用事例あるいは死亡事例が劇的に減少している。学会やシンポジウムでの意見交換や情報収集を行ったが、これは全国的な傾向であるとのことである。しかし、日本より数年遅れて欧米では合成カンナビノイド類や合成カチノン類の関与事例が急増しており、情報や知見の提供を行うべく引き続き事例の収集や更なる検討を行っていく予定である。 今後は、危険ドラッグ類を分析することで蓄積した標準添加法や分析の知見を応用すべく、これまで検討が為されていなかった他の薬物や代謝物についても検討を行い、研究対象の裾野を広げていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた、危険ドラッグ類の純品の購入が量、価格ともに当初想定していたよりも少なくなったことによる。加えて、危険ドラッグ類の製品を多種購入し、これらからの直接の分析も予定していたが、販売規制や税関法の改正によりこれらの入手が不可となってしまった。これらの理由により、当初予定していた試薬の購入にかかる金額が大幅に減ってしまった事による。更には、当初予定していた国際法中毒学会への参加と発表を更なるデータ取りまとめのため見送ったため、旅費・経費が浮いてしまった事による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は、研究の対象を危険ドラッグ類のみならず、代謝物やまだ充分な検討が為されていない古典的な薬物、新しい物質などにも裾野を広げていく予定である。そのため、純品や試薬の更なる拡充のため、これらを積極的に購入、収集していく。 これらの成果を発表するべく、今年度はオーストラリアで開催される国際法中毒学会に参加する予定である。 これらのために、翌年度分として請求した助成金と合わせて差額となった助成金を使用し、充分な成果の獲得と発信を目指す。
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