2016 Fiscal Year Research-status Report
ケトン体が非アルコール性脂肪性肝疾患の進行に与える影響の解析
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15K19328
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
川野 佑輝 神戸大学, 医学研究科, 特命助教 (80448175)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ケトン体 / 小胞体ストレス / 非アルコール性脂肪性肝疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ケトン体(主にβヒドロキシ酪酸)が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態進行へ与える影響を明らかにすることである。NAFLDではインスリン抵抗性が認められ、小胞体ストレスがその一因となっていると考えられている。平成27年度中に行った研究により、ヒト肝臓由来細胞株であるHepG2細胞においてβヒドロキシ酪酸がインスリンシグナルを増強すること、そして小胞体ストレスを抑制することを明らかにしていた。βヒドロキシ酪酸の小胞体ストレス抑制効果が普遍的なものであるかどうかを確認するため、平成28年度中は①マウス肝臓由来細胞株であるHepa1c1c7細胞を用いた検討、②細胞のケトン体産生を抑制した場合の検討、③アポトーシスへの影響の検討をおこなった。具体的には、①マウス肝臓由来細胞株であるHepa1c1c7細胞において、βヒドロキシ酪酸はツニカマイシン刺激下において小胞体ストレスマーカーのタンパク発現(CHOP, GRP78, XBP1)を抑制することを明らかにした。また、②ケトン体産生に関与するHMG-CoA lyaseをsiRNAでノックダウンして細胞のβヒドロキシ酪酸産生を抑制すると、ツニカマイシン刺激下においてGRP78の発現が促進されることがわかった。③アポトーシスへの影響に関しては、Hepa1c1c7細胞ではツニカマイシン刺激下においてβヒドロキシ酪酸はアポトーシスのマーカーであるactive Caspase3のタンパク発現を抑制し、細胞生存率も上昇させることがわかった。以上のin vitroの解析により、主要なケトン体であるβヒドロキシ酪酸は小胞体ストレスを抑制し、アポトーシスも抑制することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の状況は当初予想していたものとはやや異なっているが、新たな重要な知見も得られており、おおむね順調といえる。本研究の申請段階と異なっている点は、以下の点である。①本研究では予備実験段階よりマウスの初代肝細胞を用いる予定であったが、倫理的な問題があり、まずHepG2細胞やHepa1c1c7細胞などの培養細胞を用いて実験することにした。②βヒドロキシ酪酸の受容体としてGPR109Aがあり、GPR109Aをノックダウンしてβヒドロキシ酪酸の作用機序を明らかにしようとしていた。しかし、肝細胞ではGPR109Aの発現が低く、断念した。しかし、ケトン体産生に関与するHMG-CoA lyaseをsiRNAでノックダウンして細胞のβヒドロキシ酪酸産生を抑制することで、βヒドロキシ酪酸が小胞体ストレスに与える影響を明らかにした。③当初はβヒドロキシ酪酸の脂質代謝に対する影響を明らかにしようとしていた。しかし、平成27年度中の実験でβヒドロキシ酪酸が小胞体ストレスに関与していることが明らかになり、脂質代謝よりもまず小胞体ストレスとの関係を明らかにすることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、in vivoの実験としてマウスに高脂肪食を与えて脂肪肝を誘導することを想定していた。しかし、平成27-28年度中のin vitroの研究でβヒドロキシ酪酸が小胞体ストレスを抑制することが明らかとなり、in vivoでも同様のことが生じるか否かを検討する。具体的には、マウスにツニカマイシンを単回投与することで小胞体ストレスと脂肪肝を誘導し、βヒドロキシ酪酸投与群と非投与群の小胞体ストレスマーカー(CHOP, GRP78, XBP1)、肝内中性脂肪量などを比較検討する。本実験のためのβヒドロキシ酪酸とツニカマイシンの投与量の予備検討は終了している。
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Causes of Carryover |
当初、本研究ではin vitroの予備実験段階よりマウスの初代肝細胞を用いる予定であったが、倫理的な問題があり、まず培養細胞であるHepG2細胞を用いて実験することにした。したがって、初代肝細胞採取に必要であったマウスの購入代と飼育代、肝灌流用のポンプの購入代、各種培養液の購入代を繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度中にマウスを用いてケトン体と小胞体ストレスの関係を明らかにしていく予定であり、有意な結果が得られればその後にマウスの初代肝細胞を用いた実験を検討するため、繰り越した研究費を使用する可能性がある。
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