2015 Fiscal Year Research-status Report
間葉系幹細胞培養上清を用いた新規動脈硬化性疾患の治療法の開発及び作用機序の解明
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15K19403
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
高藤 義正 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (90734864)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 間葉系幹細胞培養上清 / プラーク / 抗炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
間葉系幹細胞(MSC)は液性因子の産生によって抗炎症、免疫調整作用を示すことが知られており、本研究は、塞栓誘発の懸念が無い間葉系幹細胞培養上清(MSC-CM)を用いた、動脈硬化性疾患に対する新しい予防法および治療法の開発を目的としている。 平成27年度は、動脈硬化に対するMSC-CMの作用をin vitroおよびin vivoにおいて検証した。in vitro試験において、MSC-CMは 炎症性刺激下にて、初代培養大動脈内皮細胞(EC)の接着関連分子の発現を低下し、初代培養マクロファージ (Mφ)の形質を炎症誘発性のM1型から炎症抑制性のM2型へ転換した。したがって、MSC-CMがEC、Mφに対する抗炎症作用を有することが明らかとなった。一方、MSC-CMはMφのアセチルLDLの取り込み能を向上したことから、Mφの泡沫化を促す可能性も示唆された。 in vivo試験において、下肢虚血モデルマウスおよび動脈硬化モデルマウスを用いてMSC-CMの作用を検証した。下肢虚血モデルマウスに200μLの10倍濃縮MSC-CMを尾静脈から1回投与した結果、投与から1週間後の下肢の所見や血流量に変化は認められず、血管新生作用は認められなかった。一方、動脈硬化モデルマウスに、200μLの10倍濃縮MSC-CMを尾静脈から週2回、13週間投与した結果、MSC-CM投与群では大動脈および大動脈弁におけるプラークが減少し、MSC-CMの投与が動脈硬化の進行を抑制することが明らかとなった。また、マウス血管壁における接着関連分子の発現が低下し、血管壁内へのMφの集積が低下した一方で、血中コレステロール値には変化が無かった。したがって、MSC-CMの抗動脈硬化作用の機序として、血管壁近傍における抗炎症作用が関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は動脈硬化の形成、進展に対するMSC-CMの作用をin vitroおよびin vivoで検証することを計画していた。in vitro試験においては、初代培養大動脈ECにおける接着関連分子の発現や、初代培養Mφの形質や泡沫化に対するMSC-CMの作用を検証した。その結果、本研究の遂行における重要な知見として、MSC-CMがECおよびMφに対する抗炎症作用を示すことが明らかとなった。また、平成27年度に計画していたECと免疫細胞の接着強度に対するMSC-CMの作用については、後述するin vivo試験を優先し、平成28年度に実施することとした。 in vivo試験においては、下肢虚血モデルマウスおよび動脈硬化モデルマウスに対するMSC-CMの作用を検証した。その結果、本研究の遂行における重要な知見として、MSC-CMが動脈硬化モデルマウスに対して、プラークの形成を抑制することが明らかとなり、その作用機序として血管近傍における抗炎症作用が示唆された。 平成27年度は実験計画の大部分を予定通り遂行し、本研究における目的の達成に繋がる有用な知見を多く得ることができた。したがって、本研究における現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
MSC-CMにはエクソソーム、タンパク質、低分子化合物など様々な成分が含まれており、平成28年度はMSC-CMに含まれる有効成分の同定および詳細な作用機序の解明に取り組む。 有効成分の同定のため、MSC-CMから分離した成分もしくは特定の成分の働きを阻害したMSC-CMを用いてECやMφに対するin vitro試験を行い、有効成分の絞り込みを行う。エクソソームは超遠心によって、低分子化合物は限外濾過によって分離し、タンパク質については中和抗体を用いて候補成分の働きを特異的に阻害する。また、プラーク形成のきっかけとなるECへの免疫細胞の接着強度を共培養系で評価する手法を確立し、接着強度に対してMSC-CMやMSC-CM由来成分が及ぼす影響を検証する。in vitro試験で高い有効性を示す成分が見つかれば、in vivoでの作用を動脈硬化モデルマウスを用いて検証する。 平成27年度の検証において、MSC-CMの抗動脈硬化作用には、血管壁近傍における抗炎症作用が寄与していることが示唆された。そこで、分子レベルでの詳細な作用機序を解明するため、ECやMφにおけるNFκB経路、JAK-STAT経路、PI3K-Akt経路など、免疫反応全般に関与する細胞内シグナル伝達系に対するMSC-CMやMSC-CMに含まれる成分の関与を検証する。 動脈硬化は様々な要因が複合的に関わって進行する病態であるため、抗炎症作用以外の機序についても検証を行う。ECが産生する一酸化窒素(NO)は、血小板凝集、単球浸潤の抑制によって抗動脈硬化作用を示すため、NOの産生にMSC-CMが与える影響を検証する。また、T細胞は免疫寛容性を示す制御性T細胞へ分化することで抗動脈硬化作用を示すため、制御性T細胞への分化や、マウス血中での制御性T細胞数にMSC-CMが与える影響を検証する。
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Causes of Carryover |
血管内皮細胞と免疫細胞の接着強度を評価する試験を平成27年度に実施することを計画していたが、in vivo 試験の実施を優先し、平成28年度に実施することとしたため、試験の実施に必要と思われる予算を次年度に持ち越すこととした。 また、平成28年度に実施予定のMSC-CMに含まれる有効成分の同定試験において、新たに抗体アレイ解析、miRNAアレイ解析が必要だと考えられた。これらの解析に必要な予算を確保するため、平成27年度の予算を次年度に持ち越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
血管内皮細胞と免疫細胞の接着強度を評価する試験において、細胞の採取に必要な実験動物の購入、細胞の培養および細胞の蛍光標識に必要な試薬の購入に用いる。 また、MSC-CMに含まれる様々なサイトカインを網羅的に解析するための抗体アレイ解析、MSC由来エクソソームに含まれるmiRNAを網羅的に解析するためのmiRNAアレイ解析に用いる。
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Research Products
(5 results)