2015 Fiscal Year Research-status Report
抗MOG抗体陽性の視神経脊髄炎における神経免疫解析と病原性の検討
Project/Area Number |
15K19472
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
サトウ ダグラス・カズトシ 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (80749284)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己抗体 / 視神経脊髄炎 / ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白 |
Outline of Annual Research Achievements |
視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica)およびその部分症である視神経脊髄炎関連疾患(Neuromyelitis spectrum disorder:NMOSD)は、重度の視神経炎と3椎体以上の長大な脊髄炎を特徴とする中枢神経炎症性疾患であり、その多くは重篤な後遺症を残す。このうち、約6割のNMOSD患者の血清で、アストロサイトに存在するアクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体(抗AQP4抗体)が疾患特異的に陽性となるが、残りの患者では、類似の症状を呈するにもかかわらず、同抗体は陰性である。われわれは以前、抗AQP4抗体陰性NMOSDで、ミエリンに対する自己抗体(抗ミエリンオリゴ糖蛋白(MOG)抗体)が陽性となること、抗MOG抗体は再発性特発性視神経炎や小児を中心とした急性散在性脳脊髄炎の一部でも陽性となること、抗AQP4抗体陽性例と比較して治療反応性や性差などが異なることなどを、検出特異度の高い細胞アッセイ法を用いて報告している(Sato DK et al, Neurology 2014)。更に私たちは、抗MOG抗体陽性例と抗AQP4陽性例、多発性硬化症の急性期髄液において、アストロサイトとミエリンの障害を、Glial fibrary acidic protein(GFAP), Myelin basic protein(MBP)をELISA法で測定することで評価した。その結果、抗MOG抗体陽性例が、代表的な中枢神経系脱髄疾患である多発性硬化症や、抗AQP4抗体陽性NMOSDとは異なり、重篤な脱髄を伴うが、抗AQP4抗体陽性例のようなアストロサイトの障害を伴わない疾患群であることを報告している(Kaneko K, Sato DK, Nakashima I et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016 Jan 22. pii: jnnp-2015-312676)。しかしながら、抗MOG抗体陽性例での、自己抗体の病的意義、抗AQP4抗体陽性例との病態の違い、病理学的所見の特徴、急性期の治療法や再発予防の必要性・予防法など、不明な点が依然として多く存在し、これらの点を明らかにすることにより、抗MOG抗体陽性例の全体像の解明を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
私たちは今まで、抗MOG抗体が、抗AQP4抗体陰性のNMOSDで陽性になること、それのみならず特発性再発性視神経炎や小児の急性散在性能脊髄炎でも陽性になること、抗MOG抗体陽性NMOSDと抗AQP4抗体陽性NMOSDでは重症度や性差、病変部位、治療反応性が異なることを報告している(Sato DK, Neurology 2014)。また、抗MOG抗体陽性例の急性期の髄液を7カ国から集め、抗AQP4抗体陽性例、多発性硬化症の急性期の髄液と非炎症中枢神経疾患を対照として、アストロサイト障害のマーカーであるGlial Fibrary Acidic Protein(GFAP)とミエリンの障害マーカーであるMyelin Basic Protein(MBP)の測定を行い、臨床情報・髄液一般所見も含め解析を行った。その結果、抗MOG抗体と抗AQP4抗体の両者が陽性の症例はなく、MSや非炎症性疾患では、いずれも抗体陰性であった。GFAPに関しては、抗AQP4抗体陽性例で著明な上昇を認めたが、抗MOG抗体陽性例(NMOの臨床型のものを含む)、MSや非炎症性疾患では、ほとんど上昇はみられなかった。その一方、MBPに関しては、抗MOG抗体陽性例および抗AQP4抗体陽性例で有意差なく上昇していた。また、MSでもMBPの上昇は見られたが、抗MOG抗体陽性例および抗AQP4抗体陽性例では、MSと比較し有意なMBPの上昇が見られた。さらに、急性期(発症から30日以内)・治療前の髄液では、抗AQP4抗体の抗体価とGFAP値に正の相関を認めた。一般髄液所見については、抗MOG抗体陽性例では抗AQP4抗体陽性例やMSと比較し有意な細胞数の上昇を認めたが、蛋白は抗MOG抗体陽性例と抗AQP4抗体陽性例で同程度に上昇し、これらは多発性硬化症と比して有意な上昇であった。オリゴクローナルバンド陽性率は、多発性硬化症のみで高率であった。以上より、抗MOG抗体陽性例は、アストロサイト障害を伴わず、脱髄が主体の病態であるが、多発性硬化症とも異なる病態であることが示唆され、本結果について、JNNPへ報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を発展させるためには、さらなる症例の蓄積が必要である。現在私たちは、2015年7月より、研究目的で血清の抗AQP4抗体および抗MOG抗体の測定依頼を全国から受け付けており、現在180例近くの抗MOG抗体陽性例を把握している。ここで得られた検体および臨床情報をもとに、抗MOG抗体陽性例の全体像を解明するため、以下に述べる研究を検討している。まず、抗MOG抗体または抗AQP4抗体陽性例、多発性硬化症の急性期髄液を集め、病態に関与するサイトカインの解析を予定している。病態に関与するサイトカインの違いと、臨床症状や検査所見などから、病態の相違について解析する予定であり、私たちはすでに複数の急性期髄液を医局にて保存しており、一定数蓄積した時点で解析を行う予定である。さらに、抗MOG抗体陽性例の病理学的な所見の検討も予定している。具体的には、過去数年に当科で入院した患者の血清が医局内に保存してあるため、脳生検を施行された患者の血清において抗体の状態を確認し、抗体陽性者のスクリーニングを行う予定である。また、他院から診断目的に検体が送付された抗MOG抗体陽性例において、脳生検を施行されたものをスクリーニングし、病理検体の当科への送付を依頼することで、症例数を増やすことが可能と考える。これにより、抗MOG抗体陽性の複数例で、共通する所見が見られないか検討する。また、抗MOG抗体陽性例は小児に多くみられ、残存する障害は1つの大きな問題である。小児科医と連携し、具体的にどのような高次脳機能障害が残りやすいのか、抗MOG抗体陽性例と陰性例で比較検討し、それらに対する介入方法の検討も予定している。その他、急性期のより適切な治療法の探索や、再発予防の必要性・予防法など、不明な点が依然として多く存在しており、これらの点を順次明らかにし、抗MOG抗体陽性例の全体像の解明を進める予定である。
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Causes of Carryover |
前述のとおり、抗MOG抗体陽性例の情報を全国より収集しているが、当初の予想に反して、適切な検体が集まるのに時間を要している。検体が一定数集まってから、病理学的な検討(特殊な免疫染色など)、網羅的なサイトカインの検索などを行う予定であったため、当初予定していた実験計画をすべて進めることができていない状況である。このため、平成27年に予定していた物品費が未使用 (次年度使用予定) となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度内に、①サイトカインの測定キット、②病理学的な検討、③抗MOG抗体の測定方法(2次抗体の種類など)の妥当性の検討、などを予定しており、サイトカイン測定キットや、複数の2次抗体の購入、Full-length MOGを導入した細胞の維持などに、研究費を使用予定である。
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] Myelin injury without astrocytopathy in neuroinflammatory disorders with MOG antibodies2016
Author(s)
Kaneko K, Sato DK, Nakashima I, Nishiyama S, Tanaka S, Marignier R, Hyun JW, Oliveira LM, Reindl M, Seifert-Held T, Sepulveda M, Siritho S, Waters PJ, Kurosawa K, Akaishi T, Kuroda H, Misu T, Prayoonwiwat N, Berger T, Saiz A, Kim HJ, Nomura K, Callegaro D, Fujihara K, Aoki M.
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Journal Title
J Neurol Neurosurg Psychiatry
Volume: 1
Pages: Epub2016Jan 22
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] Clinical phenotypes of paediatric and adult patients with anti-MOG antibodies.2015
Author(s)
Sato DK, Kaneko K, Nakashima I, Tanaka S, Fukuyo N, Oliveira LM, Pandit L, Siritho S, Waters PJ, Takahashi T, Kuroda H, Nishiyama S, Akaishi T, Kurosawa K, Misu T, Prayoonwiwat N, Nomura K, Callegaro D, Fujihara K, Aoki M.
Organizer
ECTRIMS - European Committee for the Treatment and Research in Multiple Sclerosis
Place of Presentation
Barcelona (Spain)
Year and Date
2015-10-07 – 2015-10-10
Int'l Joint Research
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[Presentation] Astrocyte and myelin injury in neuroinflammatory disorders with myelin oligodendrocyte glycoprotein or aquaporin-4 antibody positive cerebrospinal fluid.2015
Author(s)
Kaneko K, Sato DK, Nakashima I, Nishiyama S, Tanaka S, Marignier R, Hyun JW, Kim HJ, Oliveira LM, Callegaro D, Reindl M, Berger T, Seifert-Held T, Saiz A, Sepulveda M, Siritho S, Prayoonwiwat N, Waters PJ, Kurosawa K, Akaishi T, Kuroda H, Misu T, Nomura K, Fujihara K, Aoki M.
Organizer
ECTRIMS - European Committee for the Treatment and Research in Multiple Sclerosis
Place of Presentation
Barcelona (Spain)
Year and Date
2015-10-07 – 2015-10-10
Int'l Joint Research
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[Presentation] Antibodies to MOG and AQP4 in a patient with fulminant demyelinating encephalomyelitis, clinical course and neuropathological examination: a case report.2015
Author(s)
Di Pauli F, Hoftberger R, Reindl M, Schanda K, Beer R, Sato DK, Fujihara K, Lassmann H, Schmutzhard E, Berger T.
Organizer
ECTRIMS - European Committee for the Treatment and Research in Multiple Sclerosis
Place of Presentation
Barcelona (Spain)
Year and Date
2015-10-07 – 2015-10-10
Int'l Joint Research